192 宴会だと思いたい
『かーんぱーいッ!』
大人たちのあれは本日何度目の乾杯だろう。十回目あたりから数えるのやめたんだけど、やめるんじゃなかったなぁ……。
酔った人たちってなんか、何でもやりそうだよね。
忍でーす。
おばーちゃん家の近所のオジサンの家で、宴会っぽいモノやってます。
久しぶり―っ! みたいな感じで。
いろんな一家が勢ぞろい。
あたしん家でしょ、なっくん家でしょ、香ちゃん家とか皐月姉ん家とかその他諸々。
「純!? お前純か!? やべぇ、オレ身長抜かれるかもしれん」
「良雅くん、何が入ってんだそのコップ」
良雅くん、そのセリフは何回目。
「酒以外に何があるんじゃ」
前にちょっと話に出した、酔ったらえんえんとおかしなことを言い続ける父を持つおにーちゃん。
父親に飲まされたのか単に不良なだけなのか。高校生のくせに酒飲んでる。百十番したろか。
「良雅くん、お酒は二十歳になってからって中学生の時は言いよったんに」
待て皐月姉、アンタが飲んでるそれはなんだ。どーみても酒じゃないか。
んでもってアンタは春に高校卒業したとこじゃなかったか。
だれか、百十番お願いします。
「じゅんじゅんが来ちょるって!?」
あれ、何か玄関の方ででっかい女の子の声が。
「おー、あれってもしかしてたっちゃん?」
「そういやたっちゃん、空手でちょっと遅れて行くって言っちょった」
たっちゃんって……たしか、辰巳ちゃん?
「純ちゃん、今年は負けちゃってよ」
「何に?」
「たっちゃん」
「何が?」
「純ちゃん」
「へぇ、理由は?」
「あたいが見たいから」
あれ、皐月姉の一人称ってあたいだったかなぁ?
去年来たときは俺だったんだけど。
あれれ? 一昨年は確かあたしだったっけ。
……もうどうでもいいや。
「お断りだ」
『えぇーっ!?』
「何故全員がそこでハモる!」
だって純兄がたっちゃんに負けるところ見たいし。
たっちゃんってね、毎年毎年、合う度に純兄に勝負しかけるんだよ。
空手とか柔道とかの勝負じゃないよ? 喧嘩。
たっちゃんが空手やってるのはまるで関係ナシ。ほんっとに単なる喧嘩。
「じゅんじゅん覚悟ぉっ!」
「たっちゃん、落ち着け。先ずは家帰って空手着着替えて来い」
「ふふんっ、着替えならこの鞄に入っちょる」
そこは果たして胸を張るところなのでしょうか。誰か教えて。
「分かった分かった。んじゃ風呂借りて、シャワー浴びてから着替えて来い」
「手順が一つ増えちょらん!?」
「分かったらさっさと行く」
「うぅーっ、自分が戻ったら勝負じゃよ?」
「ほいほい」
「おじちゃーん! お風呂借りるけん!」
「はいはーい」
タオルとかはどうするつもりなのかな、たっちゃん。
「にっしっし、純! よくやった!」
「あ?」
「お前、あれじゃろ? たっちゃんの風呂見とぉてシャワーせぇ言ったっちゃろ?」
もしもーし、たっちゃんは小学生ですよ、確かに六年生だし多少……んと、まぁえぇとー
「皐月姉、弟さん潰す。おけ?」
「許す!」
「許されなくてもやるけどな」
じゃあなんでわざわざ聞いたの、純兄。
「ちょぉおおおお待てぇっ! 姉貴! そこんとこ許すな! こいつの潰すってどーゆー意味か分かっちょぐはぁっ!?」
分かっちょぐはぁ? 何か新たなる日本語を聞いた気分。……にはならんな。
「痛いわッ!」
「痛くしよるんじゃろ? 純くん、ウチもロリコン潰し参加しても……」
「おけ」
「よしゃっ!」
あらら、香ちゃんまで参加してる。
「えーい!」
「あー、香ちゃんならいっか……」
皐月姉の弟こと文月くん。
……んと、変態としか言いようが無いなこりゃ。
「純くん、ウチ、家からハンマーか何か取ってくる!」
「ってちょい待ち! ハンマー!? そんなんで殴られたら洒落に……あ、行っちゃった……」
香ちゃん、まさか本気でハンマーで殴ったりしないよね……?
「純、アホか! 潰すちゅったらやっぱ酒じゃろ!」
「テメェの将来はアル中だな」
「誰がアル中じゃ!」
間違いじゃないでしょ。多分。
『あぁああああああっ!』
「何!? どしたの!?」
『今日って花火しないといけないんじゃないの!?』
きれいにハモるね、小4組。約五名、光&はーちゃん含む。
「ほら~、送り火~!」
「ご先祖様帰ってくんでしょ!」
「花火花火!」
「打ち上げ花火万歳!」
「線香花火万歳!」
一番最後の、地味ッ!
あたしも線香花火好きだけどさ。でもやっぱりねずみ花火の方が面白いなぁ。
『何言いよるん。花火は明日じゃろ』
『そうだっけ』
『そうだよ』
ハモりとハモりの会話。すげー。
「じゅんじゅんやるぞ!」
あ、たっちゃん戻ってきた。
「文月くん、潰しちゃるね♪」
あ、香ちゃんも戻ってきた。
すっげー可愛い笑顔浮かべて。ハンマー片手に持って。怖ッ。
……今思った。
まともな人、居なくね?