188 発散っ! したい
「純兄、もうすぐお盆じゃん?」
「ん。嫌な時期だな」
「……幽霊いっぱい帰ってくるから?」
「稼ぎ時ではあるけど」
「仕事人間発言やめい」
いつの間に仕事人間になった、俺は。
純だ。
「で、何が言いたかった。今のか?」
「ううん。もうすぐ山口の方のおばあちゃん所行くじゃん」
「うん」
「前住んでたところじゃん」
「うん」
「皆に会えるじゃん」
「うん」
「楽しみでなんとなくどっかで発散させておかないと暴れちゃいそうで」
「裏山でも駆け回ってこい」
「冷たっ」
夏にはちょうどいいだろ。
「ん……じゃあその楽しみは組織液にでも溶かしとけ」
「何故に組織液」
「今理科やってたから」
血液中の赤血球に含まれている、酸素と結びつく物質の名称を答えなさい……。
ヘモグロビン、と。
「純兄って妙なところで単純だよね」
「そうか?」
「うん。どうでもいいところも言う」
どうでもいい所ならいいじゃねぇか。
「で、発散できたか?」
「ううん。まだまだ」
「外走ってこい」
「疲れるからヤだ」
それでいいのか中学生。
……まぁ、俺が言われたとしても同じように答えるけど。
「と言う訳で、会話ダメなら発散できる何か教えて。疲れない奴」
「どういう訳でそうなった」
「こういう訳」
……絶対ここで聞き返したらループするな。
「八朔でも食えば?」
「無いよ。旬でもないのに。いくら発散と八朔が似てるからって食べるだけで発散できるわけじゃないでしょ」
楽しみを発散させたいとかなんとかいう割にドライだな。
「八朔は昔は今くらいが旬だったらしいけど」
「過去形でしょ。全くもー、お兄ちゃんってば」
「突然呼ばれたことのない呼び方で呼ばれても引くだけだぞ」
「光には毎日呼ばれてるのに」
「光とテメェはまるで違うから」
「どういう意味だろ」
名前からして正反対。いや、忍は全然忍んでないけど。
光もある意味ズレてるような気がするけど。
「ね、どこら辺がまるで違う?」
「全てにおいてって言ってもいいかもしれない」
「そこまでじゃないでしょ。例出してよ」
例? めんどくせぇ。
「あー、そだな。服の好みとか?」
「そっかー、光よくスカートはくもんね。服装とかどうでもいいって思って無いの、光とおかーさんだけじゃない?」
確かに。
「それテメェは仮にも女子としてどうなんだよ」
「仮にじゃないんですけど。本当に女子なんですけど」
「そこはまぁ置いといて」
「置いとかないでよっ!」
じゃあそこらへんに捨てて。
「他にはあれだな、料理がまともか変か」
「ホントに置かれた!?」
「いや、捨てた」
「捨てないでよ!」
そういえば最近光料理してねぇな。平和でいい。
……嵐の前の静けさ、何て縁起でもないこと思い出した。
「ちょっとー? 聞いてるー?」
嵐なら今目の前に居るか。
「発散できたか?」
「忘れてた。ねぇ、どうやったら発散できる?」
……聞くんじゃなかった。