186 猫がぽろん
「みにゃぁ~っ!」
「お姉ちゃん~、猫ってあんな声もあげるんだね~」
「うん、あたしも初めて聞いた」
「悲鳴っぽいけど何だか語尾がほののんってしてたよね~」
「光に言われたくないと思うなぁ……」
忍です。
北側にある和室でゴロゴロと日陰ぼっこ、何て響きからして不健康そうなことをしてたら悲鳴らしき猫の鳴き声が聞こえてきました。
「にゃーっ、にゃーっ!」
「お姉ちゃん~、白猫ちゃんが来てるよ~」
「んー? あ、クロだー。久しぶりに見たなぁ」
訂正しとこう。久しぶりに会ったなぁ。
『忍ちゃ、忍ちゃ! 早く来! 緊急事たっ!』
『クロ、その一番最後の音言わないの意味わかりにくいからやめよ?』
『むむ。そ? むむむ……やっぱりこの口癖やぁめたっ! …………って、そうじゃなぁあああい!』
口癖ってそんなにあっさり帰れるものじゃないと思うんだけど。
「お姉ちゃん~、こんな叫び声も上げるんだね~。ぎにゃああああああって~」
怖いな、この叫び声。
『ミルクが大変なんだっ! 穴にぽろん』
『何かその効果音違くない?』
んでもって地味に怖くない?
『そんなこと言ってんじゃなぁいっ! いいから早く来るっ!』
「と言う訳で光、ちょっと行ってくる」
「分からないよ~。にゃ~にゃ~って二匹の世界に行かないでよ~」
あたしも匹で数えてるっ!?
「何かミルクって猫が穴にぽろんしたらしいから、猫助けしてくる」
「穴にぽろん~? 首でも落「言うなっ!」」
グロい!
「あはは~、行ってらっしゃい~」
「行ってきまーす」
裏山、しかしどこの裏なのかは分からない。別名謎の山。
そこの入口付近。獣道だけど。
『穴にぽろんって言うより穴にころん、だね。これ』
足を折りたたんで、あおむけに転がって……って。何で猫なのにそんな状態で落っこちてんの。
『忍ちゃんは聞き間違いが激しいな。ちゃんとミィはころんと言ったぞ』
そーだっけ?
『あ、忍さんこんにちは~』
『こんにちは、ミルク。まだおはようの時間だという事は黙っとくね』
『黙ってないではないですか~』
黙っとくと言ったら黙った事になるんだよ。って、誰かが言ってた。誰だろう。
『んで、大丈夫ー?』
『ひっくり返って落ちてる時点で大丈夫ではないですよぉ~』
『そっかー。どっか折れてない?』
『大丈夫です~』
よかったよかった。
さて、どうやって穴からだそう。
いや、あのね。ミルクの落ちた穴がね。やったらめったら深いのよ。
オマケに猫なら落ちれる、もとい入れるだろうけど人間じゃ無理だね。
「ややっ、これはこれは忍殿!」
「これまた久しぶりだね、一t法師。八つ橋買えた?」
「……? …………ッ!」
何、何? 何か考え始めたと思ったら、思い出したような顔して。
「拙者は爺婆に頼まれて八つ橋を買うために旅をしているのでござった!」
「今まで忘れてたとか」
「いや~、それが、道に迷ってしまって」
まだ迷ってたの!?
「……弟がね、修学旅行で京都行くんだって。その時に勝ってきてもらおうか?」
「マジッ!?」
侍な恰好で『マジッ!?』って……似合わなねー。
「うん。だからさ、この穴の中に落っこちてる猫助けてくれる?」
「猫?」
ぴょこっと穴の中を覗く一t法師。
「こっ、これはっ!? ミルク殿!」
『忍さん、この人だれですかぁ~?』
……すっごく、一t法師がかわいそうに見えた。