185 困ったの
「お兄ちゃん~」
「あ?」
「困ったの~」
「へぇ」
「困ったの~」
「ふぅん」
「困ったの~」
「ん」
「困ったの~」
やかぁしい。
純だ。
突然光が入ってきたかと思ったら……いや、別に思ってたわけじゃねぇけど。いきなり『困ったの~』を連発してきやがった。
「困ったのぉ~」
「そか」
「うん~。困ったの~」
「ん。忍にでも聞いてもらえ」
「忍お姉ちゃん裏山行ってるの~」
何故に。
「食べられる木の実の話おじいちゃんから聞いてね~。一人で探しに行ったみたい~」
暑さで脳が溶けたか?
……でも、食える木の実見つけんならその気の場所教えてもらおう。俺も食ってみたい。
「困ったの~」
「そこに戻んのかよ」
「困ったの~!」
「岳は?」
「カナカナくんの木作りに翔くん家に行ってるよ~」
何でこんな時に限って居ねぇんだよ。
「こ・ま・っ・た・の~」
「妙羅」
「妙羅はダメ~」
ちぇ。
「未理阿」
「未理阿ちゃんもダメなの~!」
「霧瑠依は?」
「死神軍団ダメ~」
む。
「夏」
「なっくんもはーちゃんもお出かけ中~」
ほんっとに、何でこんな時に限って居ねぇんだよ。
「おふく……あ、仕事か」
「そう~。だからお兄ちゃんしか居ないの~」
ちぇっ。
「あのね~」
「俺は聞くとは言ってねぇ」
「聞いてよ~!」
「はいはい」
「あのね~」
「聞くとは言って「戻らないの~!」」
わぁったよ。聞けばいいんだろ?
聞くだけだけど。
「で?」
「私のね~」
「うん」
「大事なね~」
「うん」
「宝石ちゃんがね~」
「うん?」
「家出しちゃったの~!」
は?
「宝石が家出?」
「そう~」
「生物でないモノが家出したのどうこうの前に宝石持ってたのか」
「持ってたよ~。たまにお店とかに置いてある何の石が入ってるか分からないドキドキな箱のやつ~」
あぁ、あの数百円で売ってる、持ってるのと被ると何か落ち込むやつ。
「なんとなく金を捨ててるような気がするアレか」
「酷いな~。そんな言い方ないでしょ~」
「忍の持ってた、土を削ってパーツ取り出して組み立てる恐竜の化石もどきは面白かったけど」
「話が全然違う方に曲がっちゃってるよ~」
「人間の会話なんてそんなもんだ」
「そんなもんにしないでよ~」
んで。何の話をしてたっけ。
「話戻すよ~? 宝石ちゃん探して~!」
「ヤだ」
「即答~!?」
「めんどくせぇ」
「こんな時にめんどくせぇ病ならないでよ~」
ん? これ病気なのか。へぇ。
「まぁ頑張って探せ」
「え~っ。手伝ってよ~」
「夏じゃねぇんだからプランターの中にあったりはしねぇだろ」
「当たり前でしょ~。なっくんは失くすところがおかしいんだよ~」
失くしたはさみが木に突き刺さってた事もあったな……。
「私が三分探して見つからなかったら一緒に探してね~」
「ん。……って短っ。せめて一時間は探せ」
「え~っ!? カップラーメンできるの待つ三分は長いでしょ~」
「全然違うだろ、そりゃ」
「間を取って五分ね~、絶対だよ~」
どこが間を取って、だよ。
「あった~!」
早っ。
「お兄ちゃん~、プランターの中にあったよ~!」
何でんなトコにあんだよ!
三分後
「お兄ちゃん~、あのね~。また困ったの~」
「自分で解決できねぇ事か?」