184 カナカナくん
「居たよー。そーっと、そーっと……」
しーっ。大っきい音立てないでね。
忍でーす。
蝉を取りに、雑草やら蜘蛛の巣やらのせいでであまり散歩したくない散歩道に来ています。
散歩道としてどうなのこれ。
「えいっ!」
「とれたとれたー! カナカナくん」
カナカナくん? カナカナ……と言えばヒグラシ?
んぇと。
「菜美、これアブラゼミ」
「カナカナくんってなまえなの!」
こじつけ!? それとも捕る前に決めてたとか?
「あっ! あそこにも居るよカナカナくん!」
「アブラゼミ全部のあだ名ですか!?」
「うん」
そこであっさり頷かないでほしい。
「ちがうよ。せみぜんぶ」
さらに範囲広くなったぁっ!?
「それよりっ! 早く捕らないと捕られちゃうよあのカナカナくん」
「どこ?」
「あそこ! あの小っちゃい木!」
あ、あの大きい奴。
「捕られちゃうって?」
「カマキリ!」
あー、カマキリに食われちゃうって?
「ジジジジジジッ!」
「あ、捕られちゃった」
あらら。
でもめったにカマキリのお食事シーンなんて見られないよねー。
「もういっそカマキリ捕まえりゃいいだろ」
「純兄暇そうだね」
「ん? いや、カナカナくんなら五匹くらい捕った」
純兄までカナカナくんって……。
「その取ったカナカナくんは?」
「そこ」
ん?
「カナカナくんのびんづめー」
「響きが怖いからやめなさい。入れるなら虫取り籠へ」
「えー」
えーじゃなくてっ!
「だってだって、むしかごこんなだよ?」
……忘れるのってさ。覚える事より難しいって誰かが言ってた。
でもあたしは今見たものを忘れたいんだけど。全っ力で!
「何で蝉でぎゅうぎゅうになってんの!?」
「いっぱいとれた!」
「そりゃ見たら分かるけどね! 何匹か離そ!? ね!? なっちゃん……お母さんびっくりするよ!?」
「うー。わかったぁ」
よしよし。
「お姉ちゃん~。せっかく何匹入るか試してたのに~」
「お前が原因かっ!」
「集めるの大変だったんだよ~」
よくぞ集めたと褒めてあげたいけどさ。
「忍姉ちゃんっ! あそこあそこ、捕って!」
「どそこどそこ」
「木の上! 高い所。神谷登れないから、捕って!」
誰かがすでに上ってるけど。
凄いなー、四階建ての建物くらいの高さあるのに。いや、あたしも登れるけど。
「ジジッ」
「よしゃっ! 修也捕ったぜ!」
「じゃ、頑張って片手で降りて来い」
って、岳達じゃん。
「えぇーっ!? 虫籠こっち投げろよ! 蝉入れて落とすから!」
「だめっ! 生き物は大切にするんだよ、高山!」
あ、あの古閑って子結構いい子だねー。
そして翔。空気化してるね。
「岳お兄ちゃん~、何してるの~?」
「へ? あ、居たの? カナカナくん捕りだけど。自由研究の材料調達とも言う」
カナカナくんって、流行ってるのかな……じゃなくて!
自由研究に何をするつもりだ!?
「違うよ、工作の材料調達でしょ」
工作に何を作るつもりだぁっ!
「馬鹿。工作の見本調達だ」
あぁ、やっと安心できた。
「何作るの?」
「カナカナくんの木」
よかったね、やっと喋れたね、翔。
「カナカナくんのき?」
……木にカナカナくんが生ってるところを想像してしまった。
怖っ。