179 凄いらしい
「お兄さーっんこっちら、どっちら」
何の歌だろう、これ。
忍でーす。
お風呂あがりで涼しいです。
「おにーさん居るー?」
「お前の『おにーさん』って誰を指すんだ?」
「あたしは純兄以外に兄さんいないよ」
「鬼じゃねぇのか」
聞き間違い?
「忍あがった? 純、次入る?」
「後でいい」
「じゃ次入ろ」
「おとーさん今日は早いね」
「うん」
道草食ってなかったんだねー。
家のおとーさんの場合本当に道端に生えてる草食ってんだから困る。
いくら野草美味しいからって……ねぇ?
ちゃんと公園の水で洗ってるとか言ってるけど……そういう問題じゃないでしょ。
「ん、俺ちょっと行って来る」
「どこに?」
「どういう訳か死神どもに押し付けられた仕事」
純兄が仕事人間になっちゃったぁっ!?
しかも何か妙羅に限定されていないのは何故っ!?
オマケに自分も死神だよねー。
「行ってらっしゃ~い。夜食作っとくから遅く帰ってきてね~」
「違うだろ、それ」
「え、何でおかーさん普通にしてるの?」
「え、だって今まで何千回とあったことだし~」
「何千とあってたまるか」
「冗談だよ~。何百回とあったことだし~」
あれ、純兄が否定しない。
「嘘ー」
「ホント~」
「おとーさんは?」
「知らないよ~」
よく気づかれなかったね~。
ってか、よく気づかなかったね~。あたし達も。
「でも純も開き直ったね~」
「昨日教えたし」
「あらら~。そうなの~」
「うん」
「行ってらっしゃい~」
「ん」
行ってきます位言おうよ。
行ってらっしゃーい。
「何で二階上がるの」
「人前で死神になるの嫌なんだって~。可愛いね~。家族なのに~」
可愛いか?
死神になる、の方は見てみたいけど。
「忍も可愛いよ~」
「突然そう言われても」
「あはは~」
困るだけだって。
「何作ろうかな~」
「おにぎり希望」
「……食べる気満々ね~」
そりゃもちろん。
「あたしも手伝うからさ」
「ならよし~」
おかか食べたいなー。
……あ、ところで。
「そういえばさー。死神って給料あるのかな」
「そりゃあるわよ~」
ですよねー。
じゃないと妙羅とかどうやって生活してるのさ。
「この家の貯金一部は純のお給料だもの~」
嘘ぉ。
危うくせっかくできたおにぎり落とすところだったよ。
「死神のお金って円なんだ」
「宝石~」
…………え。
「質屋で売ったら凄いのよ~」
近所に質屋何てありましたでしょうか。
「一回で諭吉さまが十人くらい~」
死神って給料いいんだねぇ
「霊界の質屋ってすごいのよ~。円でもドルでもユーロでも何でもアリ~」
霊界に質屋があるんだ。
そりゃたしかにすごいかも。
…………どんな世界だよ霊界。