173 かみとゴム
「あのさー、純兄」
「ん」
「何で勉強あたしの部屋でやってんの?」
「涼しいから」
あっさりきっぱり答えたね。
忍でーす。
「あのね、純兄」
「ん」
「前から思ってたんだけどね」
ほんっと前から。
「ん?」
「髪切ればもっと涼しくなると思うよ」
少なくとも首のあたりはかなり。
ぎりぎり肩には付かないけど、それでも首の回り覆ってるんだもん。
「短髪は落ち着かねぇもん」
もんって。
「じゃ、せめて髪くくれば?」
「ん……ゴムあったかな」
そっから始まるの?
「多分洗面台の引き出しにあるんじゃないかなー」
「ふーん」
いや、ふーんって言って何またワークに目ぇ移してんの?
「あー、やっぱ暑ぃ」
「だから取っといでって言ってるのに」
「んー」
あ、絶対めんどくせぇとか思ってる。
「ちなみにあたしは行かないからね」
んで、絶対あたしに頼むと思う。
「えー」
ほら! ほらね! 絶対あたしに頼むつもりだったんだ!
「純ー、忍ー、ゴムって持ってる?」
『ゴム?』
「そうそう。美術のさ、紙くるめて止めとくヤツ。どっか行っちゃって」
家には無いんか。
「なっくん美術やったの? 屋外写生だよね、どこ描いたの?」
なっくんって絵、上手かったっけ?
「まだ描いてねぇよ」
「じゃあなんでゴムを無くすんだよ」
「いや、何か画用紙ごとそのへんにほっといたらどういう訳か……」
『どうやって無くすんだよ!?』
す、すごい。三か月半で消しゴム五個無くしたことより凄い!
全然褒めることじゃないけど。
「修也ぁあああああ!」
「不気味だ」
「不気味くねぇっ! 喰らえ、ゴム鉄砲!」
廊下が何やら騒がしい。
「ゴムっつった? よし、貰って来よ」
なっくん、ベランダの窓位閉めるてってください。
「修也ってあれか? んと……青」
「色で言われても分かんないよ。しかもそれって前着てた服の色でしょ」
「名前を覚える気はさらさらねぇ」
最悪だこの人。
「よし、ゴム調達。じゃな」
ホントにゴム取りに来ただけなんだ……。
「純兄も少し動いたら? 肩こるよ、腰炒めるよ」
「……今発音がおかしくなかったか」
「え、腰炒めるよって言っただけ」
「……腰炒められる前に動くよ」
おぉ、言葉からにじみ出てた?
腰を炒め物にしても絶対おいしくないよねー。
あれ、でも人肉ってホントにまずいのかな?
…………危ない。一瞬食べてみたいとか思う所だった。犯罪者にはなりたくありません。
「あ、そだ純にー純にー」
「あ?」
「ゴムとび用のゴム何処やったっけ?」
「知るか」
「知っといてよ」
「知っててもどうにもならん」
えー。そかな。
「んじゃ、あれは? 縄跳び用のゴム」
「んな物あったか?」
「無いと思う」
「何がしてぇんだよ」
「暇つぶしを」
「勉強でもしてろ」
気分じゃないんだよ。
あ、でもやっぱしなきゃダメ?
歴史の復讐で五十問中四十七問できなかったんだからしないとまずい?
うー。昔の事知ってて何になるんだ! と怒鳴りたいけどね、あたしってば。
「岳!」
「あん? 何にーちゃん。がり勉モード解除?」
純兄はロボットか何かですか?
「ゴム落ちてた。ゴム鉄砲するのはいいけどちゃんと回収しろ」
「ほいなって、何か髪絡まってる。だれの?」
分かるかっ!
「んー、誰の? 結構長くてくせっ毛って? んな人居た?」
分かるかってのに。