172 夏の雪崩
「ぎゃああああああっ!」
「うっせぇ」
「いや……あのさぁ、弟が悲鳴あげたんだからちょっと位心配してもよくね?」
「心配するような出来事があったのか?」
「いや、雪崩が起きただけ」
「それ位音聞きゃ分かる」
冷てー。
机の上のモンがどっさぁああああああっとな、行ったのにな、この反応。
岳だー。
「へぇ、漢字テスト五十点? きっかり半分。すげぇ」
「だぁっ! 勝手に見んなよ!」
今までの最低点っ!
「テストから勝手にこっちに来たんだ」
「否定できねぇえええええ!」
「事実だからな」
ふんだ。このがり勉にーちゃん!
多分にーちゃんは努力型。夏休みなのになぁんで勉強してんの?
『みゅみゅっ! 何かしゅごいことになってるでしゅよ!』
あ、何か久しぶりに見た気がする。耳で歩く妖怪。
「妙羅のペットか。帰れ」
『いきなり酷いでしゅっ! でもってみゅーちゃんはペットじゃないでしゅよぉっ!』
ある意味可愛い物体なんだけどな。コレ。
『ところでこの紙と本の海は何でしゅか?』
「ちょっと雪崩が起きただけー」
『みゅみゅっ、耳の踏み場もないでしゅよっ!』
……耳の踏み場? 足の踏み場か?
「すぐ片づけるってば」
「とか言ってまた机の上に乗っけるだけだろ」
ぴんぽおーん。大正解。
『みゅみゅっ! ちゃんと片付けないとメッでしゅよ!』
見た目4,5歳に叱られる11歳の図?
あ、何か情けねー。
『第二のみょーらみたいでしゅ』
「ほぉ、妙羅は片付けが苦手なのか?」
『ほっといたら部屋はいっつも書類でぐちゃぐちゃでしゅ』
へぇ、以外。
『だからみゅーちゃんがいっつもキレイキレイしてあげてるのでしゅよ!』
「ふぅん」
『キレイキレイして、おかげでみょーらは仕事がぱっぱできるのでしゅ!』
おー、胸張ってんのか? これ。
胸だけじゃなくて動体全部張ってるように見えっけど。
「じゃあこいつの片づけ手伝ってやれ」
『了解でしゅっ♪』
おー、すげーご機嫌。
「でももう終わったぜ?」
『何処がでしゅかっ! 机の上に置いただけじゃないでしゅかっ!』
いーのいーの。
『あーっでしゅ!』
叫び声にもでしゅ付けるのかよっ!
「って、あ、ぎゃぁああああああああ」
い、一日に二回も雪崩がっ!?
バランスゲームには自信あんのになー。
『やっぱりみゅーちゃんが片づけるのでしゅっ!』
「あー……、うん。よろしく」
楽だし、いっか。
『開きましゅっ!』
…………って
「ちょぉおおおおおおおっと待ったぁあああああ!」
『みゅみゅ?』
みゅみゅ? じゃねーよ!
「何で床にこんな大穴開けてんだよ!?」
『大丈夫でしゅ。閉じることも可なのでしゅ』
じゃなくてっ!
「何で雪崩をそん中に落っことそうとしてんのかな!?」
『これであなたの机もキレイキレイのさっぱりでしゅっ!』
えーと? つまり?
「あなたはこれを全部捨てるおつもりで?」
『みゅみゅっ! 違うのでしゅよ! みゅーちゃんが居ればいつでも取り出し可能でしゅ!』
「お前が居なきゃ出せねーのかよ!」
こいつに期待したオレが馬鹿だった!
『みゅーちゃんが居なくてもお兄ちゃまが取り出してくれるでしゅよ?』
「お前のにーちゃんとか知らねーよ!」
『じゅんの事でしゅよっ!』
はい? にーちゃん?
『でしゅよねっ』
「テメェ帰れ」
『まだキレイキレイ終わってないのでしゅっ! どさぁー』
口で効果音出さんでも。
「にーちゃーん、説明プリーズ」
「ヤ」
一音で返された……。
「んじゃあ耳妖怪のさ、開けたのと同じ穴開けるだけでいいからっ! じゃねーとホントに出せんのか分かんなくてこいつ帰せねーし」
『ではではみゅーちゃんはこれにてっ! なのでしゅ!』
あ。
あーっ!
「にーちゃんっ、今日やる分の宿題穴に入れられちまったから出してっ!」
「ヤ」
「ヤ、じゃなくて!」
やべーよ、やべーよ。宿題がもしこのまま帰ってこなかったら……。
って、まだ一か月くらいあんだし大丈夫かも知れねーけど。
「頼むっ! なっ、なっ」
「……よし、ミュウは今度会ったら半殺しにしよう」
……にーちゃんの口からこんな言葉初めて聞いたけど。
殴るとかな、蹴るとかなら聞いたこと数百回あるけどなっ!?
半殺しは初めてだ! 多分。
「はぁー。やんなきゃダメ?」
「ダメー」
じゃねーと不安だしー。
「はぁ……。三歩歩下がれ。」
はい?
「あー、やっぱ五歩下がれ。テメェの机あたり。そう、そこ」
何で?
「開く」
「ぎゃああああああああああ!」
教科書痛ぇ!
何で俺の頭の上から振ってくるんだよっ!
「あ、岳。もうすぐ辞書が「ぐぁっ!?」あ……遅かったか」
もっと早く言えよっ!
あー……最初よりかなぁり酷くなってる……。
うん。
皆さん。机の整理はきちんとしましょう。