170 夏休みの宿題は
「…………うー」
「にーちゃんどした?」
「暑ぃ」
「オレだって暑ぃよ!」
へぇ。
純だ。
「んで」
「あ、まだあんの?」
「社会の宿題がめんどい」
「オレだって宿題めんどいよ!」
社会の宿題に『考察』の欄があるからめんどくせぇんだよ。
「夏休み入ったばっかりなのにほとんど宿題終わってるとこが純兄だよね」
「ん、数学の宿題は分けてやることをお勧めする」
入試過去問両面刷り四枚を一気にやるのは流石にキツイ。
「言われなくてもそーやりますー」
「……未来形?」
「数学は手付けてない」
あそ。
「ちなみに宿題に手は」
「んと、読書感想文と美術だけやった」
あ、どっちもやってねぇ。
「社会後回しにして読書感想文やろかな……」
「美術はー?」
「社会の後」
「後回しだね、よーするに」
あきらめが早いのが俺の長所だ。
もし遅刻確定の時刻に起きたとしてもサクッとあきらめるぞ?
……自慢になってねぇし。
「純お兄ちゃん図工好き~?」
「普通」
「どちらかと言えば~?」
どちらかと言えば?
「どちらかと言えば普通」
「どちらかになって無い~」
だって好きでも嫌いでもねぇし。
「ねーちゃんは? 図工」
「普通のどちらかと言えば好き」
「……二人ともどうでもいいんだね~」
『どうでもいい』
「ハモって言うとこか!?」
たまたまだ。
「純兄、ところで相談なんだけど」
「ん?」
「あ、聞いてくれるんだ。てっきり『夏にしろ』とか言うのかと思った」
その手があったか。
「夏にしろ」
「聞いてよ」
だったら話を逸らすな。
「社会やったとこまででいいから写さ「却下」チェッ」
元から期待してなかったようにしか見えねぇ。
「ね~、ところで体力作りって何したらいいの~?」
「あ、光もあんのか? それ」
「うん~、ね~、何したらいい~?」
体力づくり?
「ランニング?」「縄跳びかな」「適当に遊べば勝手につく」
「凄く投げやりな意見があったような気がするんだけど~」
「気のせいだ」
「気のせいか~」
納得するのか。
「やっぱり家事でしょ~。光手伝って~」
「は~い~」
……素直ー……。
「岳も体力づくりあるんだったわよね~、手伝って~」
「今算数やってんの!」
「じゃあ終わったらね~」
手伝う事前提か。
「あー、そーいや自由研究とかあるよなー。どしよ」
「プランクトンの観察」
「えー、もちょっと簡単なの」
簡単だろ?
「卵の殻を溶かすヤツは」
「あ、それ楽しそう。それやろ」
……二年の時にやってなかったか?
「純ー。光いるか?」
「なっくーんあたしは?」「オレは?」
「代表して一番上の奴」
「代表とかヤだ」
「子どもかお前」
何か悪いか?
「光がどしたの?」
「春が暴走したから止めてもらおうと」
「それくらいやれよ。兄貴なんだし」
「うぁ、お前に言われたくねぇ」
ん……じゃあどうしろと?
「はーちゃんの暴走って?」
「家じゅうに自由研究とか言って罠張り始めやがった」
自由研究は罠にかかった人間観察か。
それともどういう風に張った罠が一番かかりやすいか……とか。
「じゃ、俺は春の方に着く」
「あ、やっぱお前も?」
テメェもかよ。
「じゃあ何しに来たんだよ!?」
「光にさらに煽ってもらおうと……」
なら最初から言え。
「夏? 聞こえてるわよ」
「…………あーっと。あはははは……。ごめん、やっぱ罠取り外させる方手伝って」
…………。
「んな不満そうな顔になるなよっ!? 純まで!」
面白そうだったのに。
「夏。春はもう降参したわよ。さっさとあなたもこちらへいらっしゃい」
降参? …………降参?