167 バナナとクスリ
「はぁーるがきぃーたぁ、はぁーるがきぃーたぁ、どぉーこぉーにぃーきたぁー」
「剣の頭」
「やかーしぃ」
天だ。
「今、夏」
「細かいことは気にしねー方向で」
「夏でもバナナは旨いからな」
「あ、オレにも一本」
うむ。しっかり味わえ。
「そーらちゃんっ。今日もしっかりバナナ味わってるかしら?」
「あ、蓮菜さんっ! もちろん!」
私にバナナの旨さを教えてくれた蓮菜さん!
バナナ嫌いの子が何とかしてバナナが好きになるように日々奮闘する凄い人だ!
「……って、天? オレは旨い飯屋に連れてってくれるって聞いたんだけっども?」
「何を言う。今日は蓮菜さんがバナナ料理をごちそうして下さるのだ」
「……バナナ?」
バナナだ。何かおかしいか? 斬。
「……全部?」
「もちろん全部よ。いろいろなバナナ料理があるわよ~」
流石蓮菜さん!
「…………俺、まだ作りかけのクスリが。剣。実験台」
「テメーの実験台にされるよりバナナフルコースの方がずっとえぇわっ!」
うむ、よく分かってるな、剣。
「ほらほら。早くおいで」
「……む。とにかく俺は作りかけ「だーめっ」……こうなったら」
こらっ! クスリを取り出すな!
「ざぁん! これってあれだろ!? 相手溶かす奴だろ!? これを今どうしようとした!?」
「これからかけようと『やめんかっ!』じゃあ……」
別のクスリを出そうとするなっ!
バナナの前で何をする!
「……あん? こりゃ見たことねーな。何コレ」
いつもの毒々しい色でなくて、虹色に輝いているぞ?
……ある意味毒々しいかも。
「……好きなモノへ、姿、変えられる……」
「バナナになれるの!?」
えっ!?
「……本当にそれ、好きなら」
「頂戴っ!」
「ちょっと待て! 斬! 解毒薬は」
「無い」
即答っ。
「蓮菜さん、もし失敗作だったら……」
「バナナへ近づくためにはどんな危険にも立ち向かうのよっ! 天にはその覚悟がないの!?」
そ、そうか……。私はもしかして覚悟が足りないのか!?
「斬! それ、私にもくれ!」
「アホかぁああああああ!?」
私は、バナナへと近づくためにならどんな危険も恐れない!
「天ちゃん、さぁ飲みましょう」
「あぁっ」
「こいつ等絶対頭おかしい! おい! 正気に戻れ! 大体斬のクスリは飲むんじゃなくて被るんだろーが! ……じゃなくてっ! とにかくやめろっ!」
剣……。
「すまない」
「悪いと思ってんだったらやめんかぁああああああっ!」
ピシャッ
「ああああああ、被っちまった……」
「…………ちなみにコレ、動物実験前」
「はぁっ!?」
「実験出来て良かった」
「良くねぇっ! ってか天死んじまったらどーすんだよ!」
「……剣。死体隠すのにいい山知ってる?」
「違ぁう! そうねぇっ!」
「俺は知ってる。だから安心」
「安心するとこじゃねぇえええええっ!」
…………う、む?
「五月蠅いぞ」
「あ、え……そ、天?」
「ちゃんと私はバナナになれているか?」
手を動かそうとしているのに動かないのは、バナナになったからか?
「ぷっ、くっ、あ、ごめん。あぁでもやっぱ我慢できねぇっ! ぎゃはははははははははははは!」
人の顔を見て笑うな! 私はそんな風に育てた覚えは無い。
「うぅっ。あ、天ちゃん? バナナになれた?」
「蓮菜さん」
『あ……』
どうしよう。
体バナナ。顔私。
バナナの着ぐるみでも来て転がってるみたいだ。
「斬っ」
「ききっ、成功」
眩しいほどの笑顔だ。いつものクスリが完成した時の笑顔だ。
邪気たっぷり、悪戯っ子、悪魔、まあとにかくそんな類のモノを混ぜ合わせたような笑顔だ。
「解毒「無いって言ったじゃん? ききっ」くそ。作れ! そして完全にバナナになれるクスリも作れ!」
「ききっ。解毒剤は拷問に必要ないね」
私と蓮奈さんを拷問する気か!?
「天ちゃん……この子、こんなに明る……えぇと、とにかく喋る? 子なの?」
「クスリが完成した時と拷問中は……」
親の顔が見てみたいっ。