152 ジャンケン
「……うぁ」
「あら? 高山、どうしたの?」
「雨、さっきまで小降りだったのに……」
「……あぁ、傘忘れたの」
違う。
純だ。
「忍の奴、いつの間にか傘盗りやがった」
折り畳み傘、鞄に入れてたはずなのに。
居残らなきゃよかった……。
「なっさけないわねー」
「そういう鈴木は何でここに居るんだ」
「べ、別に傘忘れたわけじゃないわよ!?」
……へぇ。
「テメェそれだから、ダウト弱ぇんだよ」
今日の昼休み、清のトランプでやってたんだけど……こいつ、演技力の欠片もねぇし分かりやすいったらありゃしない。
忍と桜が強かったな。
「悪かったわねっ!」
「誰も悪いとは言ってねぇよ」
こいつ、ばばぬきも弱ぇんだろうな。
「やるか、ダウト。雨がやむまで暇だし……」
「いいわよっ、やってやろうじゃない! ま、負けても知らないわよ……」
絶対自信ねぇな、こいつ。
「でも。二人じゃつまんねぇな」
「そもそもアンタ、トランプ持ってるの?」
「まさか」
「……元からダウトなんてできないじゃないの……」
やる気もなかったけどな。
「ねぇ高山、じゃんけんしない? 別にアンタが弱いとか思ってるわけじゃないわよ?」
思ってんだな。
「……出さ者負けのジッケッタ」
俺はパー、鈴木はグー。
「ズルいわよっ!?」
「知ったことか」
「知っときなさいよ!」
嫌だと言ったらどうなんだ?
「もっかいよ! ジャン、ケン、ポン!」
「俺はジャンケンホイを推する」
「知らないわよそんなこと!」
「知っとけよ」
「嫌よ!」
「…………」
あぁ、会話が続かなくなるんだな。
「あ、悪い。お邪魔だった? すぐ出るから……」
「邪魔じゃないわよっ!? 余計な事言わなくていいんだから!」
「え、あ、ごめん……?」
余計?
「村田、テメェバスケ部?」
「おぅ、それがどした?」
「続きがあるとでも思ったか?」
「……やっぱお前、高山と兄妹だよなぁ」
……俺も高山なんだけど。
「ほらっ! さっさと行かないと練習時間減るわよっ!」
「タオルだけ取ったら出るって」
「高山っ! ジャンケンの続きよ! 一回もまともにやってないじゃない!」
二度しかやってねぇし。
「ジャンケンホイ」
「速いわよっ!」
「テメェが遅いだけだろ」
「何よっ!」
叫ぶの好きだな。
「行くわよ! 今度はちゃんとよ? ジャン、ケン、ポン!」
俺はチョキ、鈴木はグー?
ぺん
「待て、いつからたたいて・かぶってジャンケンポンになった?」
「不意打ちだったら普通に叩けるのね……」
「ん? カウンターを打っても良かったとでも?」
「よくないわよっ!」
全く痛くなさそうだったから別にいいかと思ったんだけど……。
よく考えたら女子に叩かれるのって微妙にイラつく気がする。
「ジャン、ケン、ホイ」
パシッ
「あ、防いだわねっ!?」
「防がなかったら『かぶって』の部分が無くなるだろうが?」
「何よっ! 二度連続で負けたくせに!」
……関係あるのか?
「あ、雨やんだか?」
「やんでないわよ。ちょっとパラついてる程度だけど」
「それくらいなら大丈夫だ。また降ってくる前に帰る」
出た途端降ってきたら最悪だけど……。
「そう、ならあたしも帰るわ。別にアンタが帰るからじゃないわよ!?」
「その『別に』は口癖か?」
「そんなに言ってないわよ!」
言ってる言ってる。