135 不思議満載なぬいぐるみちゃん
「ねー、ホントにこん中にあるの?」
「母さんが言ってたから間違いない! 多分」
そこに多分をつけないでよ。やる気なくなるから。
忍でーす。
岳が、押し入れにでっかいぬいぐるみあるらしいから探そーぜ! なんて言ってきたから探してるんだけど。
「無いじゃん」
「うーん、ここじゃねーのかなー?」
「んじゃもう一個の押し入れ探そうよ」
見つけてどうするつもりなのか知らないけど……。
「えー。あっちの押し入れ?」
「あっちの押し入れ」
嫌がること無いでしょうが。
普段からおとーさんとおかーさん使ってるとこなんだから……。
「はい、さっさと来る」
「なんだかんだで探すのノリノリじゃねーかよ」
だってー。
探してるのって冷蔵庫位大っきいぬいぐるみでしょ?
ちょっとくらい覚えてるよ。
たしかあれは……。
「あったあ!!」
「……え、これ?」
なんというか、無残なことになってる気がしないでもない……あぁいや、思いっきり無残なことになってるけど……。
「胡麻和え!」
「どんな名前だよこのぬいぐるみ!?」
だから胡麻和えだってば。
……何でこんな名前がついたんだろう。
あたしがつけたような気がするけどさ。
「えー……まぁいいや。何でその胡麻和えの胸が赤いのかから説明してくれねーか?」
全身クリーム色なんだけどねぇ。
なぜか左側が胸のところから赤いという……。
「これケチャップ」
「どーやったらぬいぐるみにこんなにべっとりケチャップがつくんだよ!?」
「何でだったかなー」
んーっと、んーっと、確か……。
「あ、思い出した。開封直後のケチャップを思いっきり握ちゃって、それでぶしゅーっと噴出されたケチャップが胡麻和えの胸に直撃!」
「アホか!?」
「四歳のかわいい過ちだよ」
「やったのねーちゃんかよ! しかも結果は全然かわいくねーよ! むしろ怖ぇ!」
突っ込み長い。
んでもって、
「やったのなっくんね」
「なっくぅん!」
何で壁に向かって叫んでるの。
「呼んだ?」
そして何でなっくんがここに居るのかな!?
「いや、呼んでねーよ別に」
「あそ。って、うわ、ホウレンソウのお浸しじゃん!?」
「どんな名前だよ!? ってか、え? 胡麻和えじゃねーの!?」
あれ、名前が長いって所には突っ込まなかった。
「胡麻和え? こいつの名前はホウレンソウのお浸しじゃねぇの?」
「そーだっけ。あぁでもそんな気もしないこともないけど」
「あれ? やっぱ胡麻和えだったっけ?」
あれあれ? こいつの本名何だっけ?
「よし、とりあえずまずこのキャラクター名を思い出そう」
「それよりまず、押し入れから引っ張りだそうよ」
まだ出してなかったし。
何か突き出た鼻が突っかかって見てて痛いし。
「よーいしょ。うわ、意外と重っ!?」
「そーそー、重から移動させる時は皆で蹴ったり体当たりしてたよね」
「あと転がしたりな。香ちゃん面白かったなぁ……」
えぇと、香ちゃん……あぁ! 山口の友達の中で一番の不思議ちゃん!
ちょっと天然も入ってたし、小っちゃかったし、なんか皆の妹香ちゃんとか言われてたなー。
……今度山口行ったときあたしの方が小っちゃかったらやだなぁ。
「なっくんとねーちゃんも手伝えよ!」
「あぁ、悪ぃ」
さー、皆で引っ張ろう。
「……何やってんだ、テメェ等」
『あ、手伝って。てかやって』
「質問の答えになってねぇ」
え? 質問してたの?
「ほら、この押し入れの中のぬいぐるみ出すの手伝ってって」
「あぁ、氷漬けな」
『また新しい名前出たぁあああ!!』
でも何でおかずの名前じゃないの!?
「ん? きんぴらごぼうだったか?」
結局おかずの名前だし!
「ちょ、ちょっと、やっぱ一回これ出すのやめて名前思い出そう!」
「そだね、えぇと、お味噌汁!」
「それだぁあああ!!」
一発で分かった!?
「よし、すっきりしたところでお味噌汁出そう」
「わかめの味噌汁だっけ、豆腐の味噌汁だったっけ」
「余計なところに突っ込むな! 気になる!」
なっくん、細かい所気にしすぎじゃない?
そうでもない?
「わかめと豆腐の味噌汁だ」
「あぁ、すっきりした」
「したのか!? これで!? なっくんすげー」
すごーい。
……何が?
「んじゃ出そう」
ずぽ
「……何この音」
「ぬいぐるみが抜けた音だろ?」
こんな音ふつうしないよねぇ。不思議だ。
「やっぱでけぇな、わかめと豆腐の味噌汁」
「やっぱなめこの味噌汁じゃない?」
「もういいから……」
あ、疲れた?
「んで、このキャラクター名ってなんだっけ」
「たしか、なめっこだ」
何のキャラクターなんだろ、これ
「……やっぱなめこの味噌汁かも」
「違う! こいつはニンジンとサツマイモの甘煮だ!」
何か無駄に長くなったぁ!
「何を突然……あん時お前一歳だったろ」
「背中にこんなのが挟まってた!」
背中に!? どーやって!?
《このぬいぐるみのなまえはにんじんとさつまいものあまにです。かわいがってください》
…………捨て猫? もとい捨てぬいぐるみ?
「すげぇ、字は明らかに子どもの字なのにぬいぐるみの事『この子』じゃなくてちゃんと『このぬいぐるみ』って書いてある」
「……誰が書いたんだ、これ」
「え? これってあれだろ、俺等で名前を忘れないようにしようって書いた奴じゃ……」
何でそれが捨てね……ぬいぐるみみたいになってるんだろ!?
不思議だなぁ。昔のあたしたち。