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ゼクシィには載ってなかった事  作者: 白い黒猫
避けて通れないご両親へのご挨拶
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ミート・ザ・ペアレンツ

挿絵(By みてみん)


 一般的な相手のご両親への挨拶はというと、結婚の許可をもらうだけでなく、その後の結婚準備や結婚生活を円滑にするのが目的。成功させるには事前に相手の情報をいかに掴んでいるかと、丁寧で誠意ある対応が一番の決め手となる。

 両親には、恋人の良い部分の情報を多めに与えておき敷居を下げておく。恋人には両親のクセとか好みとかのデータを与えて、より円滑な会話が出来るようにしておくのが好ましいらしい。服装はスーツが基本で、アイロンがシッカリかかったワイシャツにネクタイは奇抜でないものを選び、髭もしっかり剃り清潔感のある格好を心がけるようにする。

 そして、手土産は3千円から5千円のもので、相手のご両親の好みの物や、自分の郷土の名物などを用意する。といったものが基本なようだ。


 しかし、私の男性側からの両親へのご挨拶というと――。

 大陽くんと私が結婚を決めた週の、水曜日・木曜日・金曜日・土曜日の午前中の我が家の空気は最悪だった。

 当たり前といったら当たり前、私は父と冷戦状態で会話はなく、怒りの冷めない私は殆ど父を無視して生活していた。父も初めて私が見せた反抗と拒絶に、どう対処してよいのかも分からず、実はうろたえていたようだ。しかし謝ることもせずに母を通してなあなあで関係回復を図ろうとしていた、そういう所も私はさらに怒りを募らせる。

 そして、嫌な緊張感に包まれたまま、土曜日となった。

「じゃあ、大陽さん、迎えにいってくるね」

 私の言葉に、母は黙って頷き私を見送った。父は難しい顔で朝ずっとリビングに座って新聞を読み続けている。もういい加減全ての記事を読んでいると思うのに、黙ったまま何度も新聞を読み返している。父も母を通して、相手がかつて自分と同じ職場で働いていた人物の息子という話は聞いてはいるものの、だからといって、そこまでも仲良い相手でもなかった為にその家族の情報が殆どない状態。しかもあんな状況で決めた結婚だけに相手がどういうテンションでやってくるのか読めない所が、さらに父を不安にさせていたのだと思う。


 駅の改札の所で待っていると、階段から大きな男がズンズン登ってくるのが見える。大陽くんが来たようだ。黒のスパイダーマンのTシャツに黒のジャケットにブラックジーンズという、えらくラフな格好である。手には『崎陽軒』と書かれた紙袋を下げている。私に気が付いて、ヘラっとした笑顔を見せる。

「ごめん、待った?」

「ううん、今来たとこ、何? その紙袋」

 私は、大陽くんの下げている荷物の中身は想像ついたけど、聞いてみた。

「崎陽軒のシュウマイ! ゆり蔵さん家への手土産にと買ってきたんだ」

 それは分かったけど、『崎陽軒』? ちなみに我が家は横浜市内にある。何故、川崎に住む大陽くんが、横浜に住む我が家への手土産に、横浜名物『崎陽軒のシュウマイ』を持って来るのだろうか? まあ、いいか……深く考えるのは止めよう。

 私は、大陽くんを初めて我が家に案内するために歩き出す。

「結構大きい駅なんだね、駅ビルもあるし」

 大陽くんは楽しそうに、初めての景色を楽しんでいる。

「最近、急に開発が進んでね」

「あ、ホテルまであるんだ。ブライダルフェアしてるよ、後で遊びにいかない?」

 楽しそうというか、緊張感なさ過ぎる大陽くんの様子に、私も少し不安になってくる。

「あ、チョット、お店寄って良い? ここの煎餅お父さん好きなの」

 私は、父の好きなお店の煎餅を一箱買い贈答用に包んでもらい、それを大陽くんに渡す。

 そして、私だけが緊張しながら、我が家に到着する。

「ただいま戻りました」

 玄関に入ると、出たときと変わらず、ドヨンとした嫌な緊張感が漂っている。母は怯えながらも必死で笑みを作り私達を迎える。父は無表情のまま奥から出てくる。

 そんな二人を前に、大陽くんはヘラヘラと笑って頭を下げる。

「こんにちは~! 大陽渚です。今日はわざわざご頂きまして、ありがとうございます」

 笑いながら、大陽くんはトンデモない事を言った。母は『え?』という顔になり、父は『あれ?』という顔をした。私も思わず、大陽くんを見上げてしまう。

 ツッコんでいいですか? 貴方は『ご招待』はされてはいません。『挨拶したいから、家に行きます』と半ば強引に家にやってきたというのが正しい状況。まあ、根回しもせずに、両親の心の準備も殆ど出来てない最悪な状況でこのイベントを行わせる事にしてしまった、私が悪いのですが……。

 そんな微妙な周りの空気を全く気にせず脳天気な笑顔で、呆然としている母と父に崎陽軒のシュウマイと煎餅の包みを渡しているのを、私は不安を胸に眺めていた。

ミート・ザ・ペアレンツ2001米/コメディ/108分

Meet the Parents

監督:ジェイ・ローチ

製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ

製作:ロバート・デ・ニーロ

ジェイ・ローチ

脚本:ジョン・ハンバーグ

出演:ロバート・デ・ニーロ

ベン・スティラー

ブライス・ダナー

テリ・ポロ

ジェームズ・レブホーン

ジョン・エイブラハムズ

オウエン・ウィルソン

フィリス・ジョージ

カリ・ロッカ

トーマス・マッカーシー

ニコール・デハフ


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