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ゼクシィには載ってなかった事  作者: 白い黒猫
避けて通れないご両親へのご挨拶
6/40

ウエディング宣言

相手の両親へのご挨拶――結婚準備において、プロポーズに並ぶ難関ともいえるイベント。寧ろ、プロポーズよりも難関ともいうべきもので、内容は結婚を決めた二人が互いの家族に挨拶に行き、結婚の許可をもらうというもの。

挿絵(By みてみん)


 東和薬品さんの応接室にて出してもらった珈琲を飲む。美味しい、いい珈琲を使っているようだ。

 応接室のソファーも柔らかくて座り心地良い。

 派手さはないけれど青を基調にした落ち着いた内装がなんとも品が良い。やはり一流企業は、こういう所が違うなと思う。

 今日の私は、勤めているモリシマ担当の営業マンである黒沢明彦の付き添い。私は作業担当として打ち合わせに参加していた。

 黒沢明彦と広報部の青山慎司主任との対話に相槌を入れながら補足していけばいいので精神的にかなり楽だった。

 冊子の大幅変更という話だったか、基本は変わらない為に、そこまで私の方の作業に影響はなさそうだ。打ち合わせ事態も平和な形で終わった、

「すいません、今日は月見里さんまで来て頂いて……。あっ申し訳ありません、大陽さんになられたのですよね」

「そうなんですが、会社でも旧姓のまま呼ばれているので、なんか私自身も新しい名前になれなくて。

 今日は青山主任にお逢い出来るので張り切って来てしまいました。あっ、新しい名刺お渡しもしないで、申し訳ありません」

 電話やメールでは散々会話しているのに、青山主任とこうして会うのも久しぶりである。 

 私は青山主任に、『大陽百合子』の名の名刺を手渡す。結婚して名前が変わったものの、社内では『月ちゃん』と旧姓の愛称で呼ばれているのもダメなのだろう。

 一年経つというのにまだ慣れないから困ったものである。こうして大陽の名を名乗るのはなんか新鮮で楽しい。

 元々外勤が少ない為にこの名刺を配る機会がないから尚さらである。

 私は黒沢明彦と一緒に立派なビルを出て、大きくため息をつく。付き添いとはいえ、気をはっていたこともあり、緊張から解き放たれてホッとする。

「お疲れ様」

 声のする方を見ると、隣の男性は何故か可笑しそうにコチラを見て笑っている。営業の彼にとってはこんな事は慣れっこなのだろう。未だ緊張している私の様子がそんなに楽しいのだろうか?

「お疲れさま、黒くんこそ」

 私は取りあえず、黒くんに笑い返す。でも、まだニヤニヤと笑っている。

「何? その人の悪い笑顔は?」

 黒くんは、慌てて首をふる。

「いやね、初めて月ちゃんと会ったときと、似た状況だなと思って。一緒に会社を出たところで、月ちゃんが大きくため息つく」

 初めて? ああ、入社試験の時の事かと私は合点する。

 そう黒沢明彦と私は同期というだけではなく、同じ日に入社試験を受けている。そして確かにこのように、一緒に面接のあと、同じような並びで会社の玄関を出た。なんとも懐かしい話である。

「良かったら、お茶でもしていかない?」

 ニヤリと笑いながら、黒くんがビルのお向かいにある喫茶店を指さす。

「サボりですか、いいね、お付き合いしますよ」

「参りますか」

 黒くんは、共犯者の笑みを浮かべ手を私の方に差し伸べる。

 こういう気障っぽい動作が不思議と似合う。いわゆるイケメンではないけれど、そういう空気を持っている不思議な男である。


※   ※   ※


 若い夫婦が二人でやっている喫茶店は、白とブルーを基調としたインテリアがなんとも爽やかである。

 地中海をイメージしたのだろう、こういう気分転換のサボりに入るには最適なお店に思えた。 

「なんか素敵なお店だね」

 私はお店を見渡して、その心地よさに嬉しくなり黒くんに笑いかける。

「だろ? 来る度に月ちゃん好きそうだなと思っていたんだ」

 ということは、よく此所にサボりに入っているということだろう。

 黒くんと私は、趣味の映画だけでなくこういったお店の趣味を合っている。

 よく一緒に出かけては二人で映画をみて喫茶店でこうして向かい合ってお茶を楽しんできた。こういう好きな喫茶店の趣味とかは、私の旦那様よりも合ってたりする。

「ほうほう、いいですね~営業はこうして優雅にティータイムを楽しめて」

 黒くんは目を細めて、コチラのチラっと見る。

「月ちゃんだって外勤の途中、色々、立ち寄ったりしてるでしょ」

「いや、私はお客様と一緒に飲んでるから、一応真面目に営業だよ」

 ヘラっと笑ってみせる私に黒くんは『まったく』といいながら、笑う。

 私はふとある事を思い出す

「そうそう、聞いたよ、オメデトウ!」

 一瞬、黒くんは『え?』って顔をしたが、思い当たる節があったのを思いだし珍しく照れたように頬を緩ませる。

「実和のヤツ、もう月ちゃんに言ったんだ」

 クシャっとした照れた顔、なんかいいな、男性のこういう照れた顔って。

「プロポーズの話を聞いて、感動したよ! もう黒くんに惚れそうになったもの」

 その言葉に黒くんは何故か固まり、そして苦笑する。

「月ちゃんに、そこで惚れられてもね~」

 確かに、そりゃそうだ。不毛すぎる。

「でも、あんなに素敵なプロポーズ、女性としては堪らないよ」

 私は思い出してウットリしながら言うと、黒くんはため息を大袈裟につく。

「あのさ、普通でしょ、『結婚してくれませんか』って言うのは」

 まあそうなのでしょう。しかしそこに繋がるシチュエーションは大事。

 出来たら黒くんと実和ちゃんのようにロマンチックなモノであってほしかったな。

「私の場合、なんとも間抜けなプロポーズシーンだったから、結婚の披露宴で態々やり直したの」

「そうなんだ……どんなんだったの? 何か俺の方だけ内容だだ漏れって不公平だから教えてよ」

 黒沢くんはニヤニヤしながら聞いてくる。

「ん? 深夜のファミレスで、電話ごしで『じゃ、結婚でもする?』だったよ」

 流石に黒くんは絶句する。

 私は、そんな黒くんに簡単な顛末を話すと、笑い出す。まあ父親との喧嘩の内容とかかなり端折ったけど。

「月ちゃんってそんな、キャラだった? プチ家出なんて」

 そりゃ笑われても仕方が無いが、実際笑われるとムカツクものである。

 私がちょっとむくれていると、黒くんが、「あ!」という顔をして笑うのを止める。そして真面目くさった表情になる。

「そうだ、月ちゃんに是非是非、教えてもらいたい事があるんだけど!」

「ん?」

 切羽詰まった、私に何か訴えるような目をしている。

「あのさ、相手の両親への挨拶って、どうするのが一番いい? 月ちゃんの時はどんな感じなの?」

 挨拶ね~そこを私に聞いてきますか。  

「あら? 実和ちゃんのご両親と会うの初めて? 前、実和ちゃんの家でクリスマスしたって聞いたけど」

「そこなんだよ。お母さんとは、よく顔合わせて大丈夫だけど……。お父さんはタイに赴任していたために、今度合うのが初めてなんだ」

 そうだよね、普通は相手のご両親に会うのって、コレくらい緊張する事だよね?

「でも、黒くんだったら、相手のご両親も大満足だよ! 心配しなくていいよ」

「注意したほうが良い言葉ってあるかな?」

 あら、就職面接の時よりも緊張してませんか? この人は。

 就職面接の時は、なんかニヤニヤしながら余裕な感じだったというのに。

「タブーな話題については、実和ちゃんに最初にリサーチしたほうが」

「タブーね~」

 もっともらしく黒くんは頷く。

「ハゲとか。ツルツルいった表現は避けろとか」

 その言葉に、『ん?』という顔になる黒くん。

 私は姉の恋人が挨拶に来たときの事を思い出す。

「あ、あとね。『お嬢様を私に下さい』って言い方はあまりしないほうが」

 ビックリした顔で黒くんはコチラを見る。そりゃそうでしょう、この言葉はドラマでも一般的によく使われている言葉だし。

「え? そうなの」

「父親としては娘を『ください』と『モノ』のように言われるのってあまりいい気がしないみたい。

 『実和さんとの結婚を許して頂けないでしょうか』とかいう表現にしておいたほうがいいかも。ウチの父親は以前それで激怒したので」

 黒くんが尊敬の目で私を見てくる。

「確かに、それは言えているかも、他にもない?

 ちなみに月ちゃんの場合はどうやって、その最悪な状況で結婚のOKをもらったの? 渚さんのノウハウあれば俺、余裕じゃない?」

 私は苦笑するしかない。

「イヤイヤ、それは止めたほうがいい! ウチの調子でやったら悲惨な事になるよ」

「え? 何? それ」

 怪訝な顔で聞いてくる。

 私は大きくため息をついて、悪い見本として自分の夫の、とんでもないご両親への挨拶を語ることにする。『間違いだらけ?』というより『何処が結婚のご挨拶?』という大陽渚による私の両親へのご挨拶の顛末を――。

ウエディング宣言2005米/コメディ/101分

Monster-in-Law

監督:ロバート・ルケティック

出演:ジェニファー・ロペス

ジェーン・フォンダ

マイケル・ヴァルタン

ワンダ・サイクス

アダム・スコット

モネット・メイザー

アニー・パリッセ

ウィル・アーネット

エレイン・ストリッチ


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