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太陽は夜も輝く


挿絵(By みてみん)


 真夜中のファミレスは、人もまばら。

 やる気もあまりなさそうな低いテンションの店員に、窓際のソファー席に案内される。

 私はドリンクバーを注文し、そのままドリンクバーに行きカフェオレを作りまたトボトボと席に戻る。

 さて、と、スマフォを手にしたら、スマフォが震える。ディスプレイを見ると、姉の名がソコにあった。

「良かった! 出た!」

 第一声は、姉の安堵の声。母が私のスマフォが繋がらないから、結婚して家に出ているもう一人の娘に助けを求めたのだろう。

「心配かけてゴメン……」

 私は謝るしかない。

「大丈夫? 今何処?」

 説教が始まるかと思ったが、姉の声は思いの外優しい。

「うちに来な! あの父さんと暮らすのも大変でしょ」

 姉は私と異なり、散々父とやり合ってきただけに、誰よりも我が家の現状を知っている。

 姉が住む場所は千葉県の半島部分。

 尚更に今日中にたどり着ける場所ではない。私は大陽くん言ったのと同じ返事をする。

 気分が落ち着いたらちゃんと家に戻るから母にも心配しないように伝えて欲しいとお願いした。

 姉はそれでも私を気遣い、本格的な家出も薦め一緒に戦こうかといった提案をしてくる。

 私は『大丈夫』と返事する。姉だって一人で父と戦ってきたのだ。私も戦う時は戦わねばならない。自分の力で。

 電話を切ると、即電話が震える。大陽くんからの電話だ。

 姉と会話していた事で いつまでたってもかかってこない電話にジレてかけてきたのだろう。

 大陽くんは百九十というデカい体格に似合わす、意外に気が短い。

「ちゃんと、店に入った?」

「うん、ドリンクバーも頼んだ。姉から電話がきていて遅くなりました。ゴメン」

「そうか……しかし何でまた、そんな事に?」

 私はどう説明するべきか悩む。付き合い始めたばかりで、親と『結婚』問題で揉めたとは言いづらい。

「いつもの事なんだけどね。

 ウチの父親、自己中だし横暴だしいつも滅茶苦茶な事を言ってくるのよ……。

 いつもは流すなりして耐えてたけど、今日はなんかキレてしまったの」

 何故か、フッと笑う声が聞こえる。

「ゆり蔵さん。

 いつも俺が直ぐキレるって、諫めるけど、ゆり蔵さんのようにいつも我慢している方が危ないじゃん。キレたら暴走するから」

 返す言葉もない。その言葉にさらに凹む。

「コレからは、こまめにガス抜きします」

 電話の奥から、フーと息を吐く音が聞こえる。 

「あのさ、そんなに家が辛いなら、一緒に住まない?」

 大陽くんの言葉に、息を止める。

 なんという、甘すぎる誘惑なんだろうか? あの家を出て、大陽くんと暮らす。

「ダメだよ、根本的解決にならない。

 第一同棲なんてしたら、余計に五月蠅く言って来て問題複雑になるだけだから」

 私は、誘惑に負けそうになるが耐える。

 それは一時的な逃げだけにしかならない。

 面倒な事に大陽くんを巻き込んでさらに騒ぎをデカクするだけだ。


「だったら、何も文句いってこられない、チャンとした形で家を出て一緒に暮らせばいいよ!」

 スピーカーからサラリ聞こえてくる言葉に私は固まる。怒りでも喜びでも人間どんな感情も、ある飽和量を超えると、頭が真っ白になるらしい。

「ゆり蔵さん? 大丈夫? 起きてる?」

 私は、意識を取り戻し、慌てて首を振る。

「起きているし、聞いてる、あの、それさ……」

「あれ? 嫌だった?」

 この人はどういう顔で、この会話をしているのだろうか? 口調はいつも週末の予定を立てているときと変わらないように聞こえる。

「ううん、嬉しい。ただ、なぎ左右衛門さんは、私なんかでいいの?

 なぎ左右衛門さんがいつもチンチクリンとチンチクリンと言ってる私だよ!」 

 ブブッと笑う声が聞こえる。

「だから、楽しくていいんじゃん」

 そんな理由で、結婚相手を決めていいのか? この人は……。

 その言葉に、私も思わず笑いながら泣けてきた。

「そうか、ならいいか……」

 電話の向こうから『うんうん』といった明るい声が聞こえる。

「でも、ウチの親、かなりややこしいよ……」

「ややこしいのは、ゆり蔵さんもでしょ!」

 そう言われてしまうと、何も言い返せない。フフと笑う声がスマフォのスピーカーから聞こえる。

「じゃあ、結婚しますか!」

 次の週末、新作映画でも観に行きますか! といった感じで軽いノリのプロポーズ。

「いいね! 楽しそう」

 私も、同じようなノリで返す。

「じゃ、今週末は、ゆり蔵さんの家にご挨拶することで決まり!」

 なんか、この人となら、どんな事も軽く楽しく乗り越えていけそうな気がした。

 でも、流石に今日は疲れた。感情があらゆる方向にメーターを振り切リすぎた。

 気が付くと、もう二時過ぎだ。残業して仕事で疲れているはずの大陽くんに、こんな時間まで電話で付き合わせてしまった事に申し訳なく感じる。

「あ、なぎ左右衛門さんも、明日会社だよね。ゴメン、こんな時間まで付き合わせてしまって。そろそろ寝て」

 私はそう言って、強制的に電話を終了させる。


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