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ゼクシィには載ってなかった事  作者: 白い黒猫
ドレスを選んでみたり
29/40

夕映えの道

挿絵(By みてみん)


 三種類のドレスを試着した。一番スタイルが良く見えるハイウェストであるエンバイアラインの方向で決めた。

 薫さんはプリンセスラインの方が良かったようで少し残念そうだ。

 私は姉の結婚式の時、教会でロングレーンのドレスを着て厳粛な感じで歩いていく姿が素敵で、あの雰囲気に憧れがあった。プリンセスラインのドレスは華やかさが増す分、粛とした雰囲気がやや低くなる。


 流れるようなシンプルなデザインであるものの、レースを贅沢に使用した壮美な感じのドレスなった。

 前面にタップリとドレープをとっていることで見た目にリズムがある。しかも腰の所に花をあしらってあり、そこから流れるロングレーンがとても綺麗なのだ。

 レースをふんだんに使ったオフショルダーの柔らかいトップのデザインもまた可愛らしい。披露宴で座って上半身しか見えなくなっても、寂しいと感じないデザインが良かった。

 薫さんも、清楚な感じでいて華やかなドレスも気に入ってくれたようで、満足気に頷いていた。

 大陽くんは、同じスタイルのドレスの違いが正直よく分からなくなってきたようだ。目が虚ろになってきているのは気のせいだろうか?

「ん~かな~」「いいんじゃないかな~」といって言葉しか出なくなってきている。


 引き続き色ドレスを選ぶことにする。結婚前は忙しいだけに、ドレス選びに二日もかけてられない。

 ハッキリした言葉でアドバイスをくれる薫さんに来てもらって本当に良かったと私は今更のように思う。

 こういう時に男性の大陽くんはあまり役に立たない。仕事の疲れもあるのだろう。ソファーで休んでいる。

「月ちゃんは、やはり優しい色のほうがいいのかな~」

 色ドレスは、形だけでなく色と雰囲気とバリエーションが広がりさらに悩みも増える。

 そう言いながら、薫さんはいっぱいハンガーに垂れ下がった色ドレスの間に手を入れて、ヨイショと力をいれる。出来た隙間をつくり、デザインをチェックしていく。

 淡いほうがいいのだろうか? そのほうが私の無難でいいのかな~と思っていると 

「こういう時だから、華やかな物を選ぶのもいいですよ」

 担当員がニッコリとそんなアドバイスをしてきて、私をさらに迷わせる。

「月見里様はクールな顔立ちをされているので結構お似合いかと」

 クールというより、サッパリしているだけなのですが……。

 薫さんは、その言葉を聞きウーンとなにやら考え込んでいるようだ。そしてニヤリと笑う。

「じゃあ~コレあたりからいこうか~」

 そういって、真っ赤なドレスを引っ張り出してくる。 しかもプリンセスラインで、ヒラヒラしていて、とにかく華やか!

「え……それ!」

 躊躇したけど、薫さんの目は『着ろ!』と訴えかける。まあ、着てみるだけはと、私は再び更衣室へと引っ込むことにする。

 でも、意外や意外、着てみると悪くないような気がするのは私の気のせいだろうか?

 そういえば、大学の色学の授業で、赤色って実は派手だけど一番どの民族の肌色でも綺麗に引き立てるという話をしていたのを思い出す。

 確かに色が濃いけれど赤い反射で肌が白く健康的にも見える。意気揚々と更衣室のカーテンをあけ私は飛び出す。だんだん長いドレスの裾にも慣れてきた。

「あ! けっこういいじゃん! その色」

 薫さんも、半分冗談で決めた所があるようで、意外な相性に驚くものの、その結果に満足そうに笑う。アドバイザーもニコニコ見ている。でもコチラの方は常にこの顔なので、イマイチ参考にならない所もあったりする。

 で、もう一人の反応はと、視線を巡らすと、大陽くんはソファーに座って眠りこけていた。

 薫さんは、その様子に露骨に顔をしかめ、そのままズカズカと近づき、思いっきり頭を殴った。しっかりグーで……。

 大陽くんは、びっくりしたように飛び起き、キョロキョロとあたりを伺い、自分を怒りの形相で見下ろしている薫さんを呆然と見上げる。

「あんたさ、なんでそんな無関心なの! 自分のお嫁さんになる人の、ドレス選びだよ!

 あんたが選ばなくてどうするの!」

 流石に殴ったことでアドバイザーさんは慌てて、まあまあと諫めるけれど、薫さんはそのまま仁王立ち状態。私も慌ててドレスを引きずりながら近寄り、薫さんをなだめる。

「渚くんは、徹夜明けなの、だから今日は許してあげて」

「でもさ、愛する女性の晴れ姿、普通テンションもあがるし、目も覚めるでしょうに」

 薫さんは、ブツブツと文句言う。

「二人が楽しそうだから、任せていいのかなと。不快にさせたなら悪かった。百合ちゃんもゴメンね」

 一応謝りの言葉を言う大陽くんに、薫さんはまだ不満そうだ。困った、薫さんはヘソを曲げるとややこしい。


 どうしようかなと思っていると、後ろでシャッとカーテンが開く音がして、『まあ、お似合いです』『素敵だよ! そのドレス』といった会話が聞こえてくる。先程から隣で同じようにドレス選びをしているカップルが盛り上がっているようだ。

 私の後から入ってきた二人。そちらは二人でなんか盛り上がってドレスを選んでいるのが気配では伝わってきていた。しかそ私は自分の事でいっぱいになっていて、その二人の姿は見ていなかった。

 何故か、やや寝ぼけてどんよりしていた大陽くんの目がクワっと見開き、私の背後へと向けられる。

 こういう時に私よりも他の女性のドレス姿に反応されるのは、流石の私も面白くない。


 私がそっと後ろを向くと、そこには大柄でかなりふくよかな女性が私以上にフリッフリの赤いドレスを着て、試着室にミッシリはまっているという感じで立っていた。その女性が動くとそのドレスがヒラヒラと揺れ、インパクト強すぎる場面を作り出す。

「金魚……」

 私の横でボソっと薫さんの声がした。

「赤だるま……」

 後から、大様くんのつぶやきが聞こえた。

(二人とも、凄く失礼な事を言っていますよ)

 幸いな事に、そのつぶやきは近くのアドバイザーさんくらいにしか聞こえてなかったようで、一人彼女は困った笑みを浮かべていた。

 その真紅ドレスの女性の存在感が、険悪なムードを吹き飛ばしてくれたようだ。

「赤も悪くないけど、隣の女性ほど、月ちゃんは着こなせてないかもね~」

 薫さんはニヤリと私に笑いかける。確かに、隣の女性はドレスの赤のパワーに全然人間自身が負けてなくさらに彼女をパワーアップさせている。

 大陽くんも、同じように人の悪い笑みをこちらに向けてくる。

 殴られてから、大陽くんも積極的にドレス選びに参加してくれたことで、色ドレス選びはより盛り上がった。

 私はAラインのドレスと思っていたのだが、薫さんと大陽くんが妙な気の合い方をした。

 それだと白ドレスと形状が近くて、見た目の変化ないから面白くなくなるという言うことで却下になった。

 瑠璃紺のフレンチスリーブでプリンセスラインのドレスを選びことにした。胸のところにドレス同じ布で作った薔薇の飾りがあしらってある。

 かなり可愛いデザインだけど、光沢のある布と色がクールなためブリブリにならない所が、私も気に入った部分である。


 私が試着している間に、大陽くんと薫さんの間に何か会話がなされたようで、衣装選びが終わった頃には二人は意外にも仲良く打ち解けていた。

「まあまあ 悪いヤツじゃないね? とりあえず月ちゃんと私とのデートは許可してもらえたから、コレからも堂々と浮気できるね」

 互助会からの帰り薫さんは私に抱きつきながら、上機嫌でそんな事言ってきた。

 大陽くんに、どんな話をしたのか聞いてみたけど、『別にふつうの会話だけど』と首をかしげて、そんな言葉を返してくる。でも、家族と同じくらい親友に婚約者を認めてもらうというのは嬉しいものだ。

「どうしたの? 月ちゃんニヤニヤして」

 薫さんが私を不思議そうに見つめ。話しかけてくる。

「ん? なんか高校時代に戻った感じで。こうやってじゃれあって夕方の住宅街道を歩くのって」

 薫さんは、ニッコリ笑う。

「だったら、ソレっぽくこのまま、三人でファミレスとかしけこむ?」

 懐かしい、テスト前とか、よく三人でファミレスにいって勉強を教えてもらったものだ。

「いいですね、なら今日お世話になった事ですし、おごりますよ」

 クスクス笑いながら大陽くんが薫さんに話しかける。

「失敗した、ならもう少し高い店を言えばよかった」

「じゃ、今日は、気持ちは十代で楽しもうか!」

 私は二人に振り返って、たしか駅前にあったファミレスを誘導することにする。

 後ろに長く伸びた三つの影がみえた。黒く塗りつぶされたそれは高校時代のモノとはかなり形をかえているものの、その雰囲気はかつてのあの時のように無邪気で楽しげに見えた。

夕映えの道 (RUE DU RETRAIT)

2001年 フランス 90分

監督・脚本:ルネ・フェレ

原作:ドリス・レッシング

キャスト:ルネ・フェレ

ドミニク・マルカス

マリオン・エルド

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませて頂いています。めっちゃ久しぶりに自分の衣装選びから結婚式までの写真を取り出してみたくなりました(笑)あーあの頃、こんなだったなーとか、思い出といっしょに楽しい気分になりました…
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