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ゼクシィには載ってなかった事  作者: 白い黒猫
ドレスを選んでみたり
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母の微笑

挿絵(By みてみん)


 教会式の結婚式を挙げる際に、必ず通るバージンロード。

 ホテル内にあるセットみたいな教会に神様が本当にいるのかも怪しい。日本においてカトリック式の挙式をする殆どのカップルが、こんな教会で式を挙げる。

 バージンロードという言葉は和製英語だという。

 海外ではウェディングアイルライナーと呼ばれている。

 往路はそれまでの人生を表していて、家族と歩いてきた道を父親と歩く。

 復路は伴侶となるべく相手と手を取り合い未来へと歩き出す。そんな意味があり結婚というものがなんたるかを示しているらしい。

 とはいえ、この名前を最初につけた人はなんて恥ずかしい名前をつけたのだろうと思う。

 今のこの時代、この日本でどれほどの人がその名に相応しい清らかな身体で通るというのだろうか?

 私は真面目に生きてきて、遊んでいたわけではない。しかし流石にバージンではない。

 それだけにバージンロードという言葉は別の意味で恥ずかしいものを感じてしまうのは私だけなのだろうか?


 母とは付き合っている人の事の話とか、恋愛の話とかしたことが一切ないのでよく分からない。

 多分私がそれなりの経験をしている事は分かっているとは思う。しかし父は、恐ろしい事に私がまだバージンだと信じ切っているきらいがある。

 父には、それだけ娘は見えていないし、自分が見たいようにしか世界を見ていない。また私もそういう面しか見せてこなかった。仮面夫婦というのがあるが、仮面親子ともいうべき関係で過ごしてきた。

 私が父に自分をさらけ出してこなかっただけかもしれない。

 父は自分を家族にさらけ出し自由気ままに生きてきているから。

 結婚することが決まって私達親子の会話は、殆ど結婚準備の進行報告となる。

 今日は指輪をもらった事の報告と、結婚準備の進行状況についての報告をしていた。

「ということは、俺達の仕事は、もう当日式に出席するだけだよな?」

 ニコニコと指輪やホテルのパンフレットを見ている母とは異なり、父はつまらなそうに話を聞いてくる。自分が関わる部分だけの確認。

「はい。でも当日は色々ご面倒おかけすることになると思います。

 親族顔合わせの際の親族紹介とか教会での付き添いとかもありますので」

 我ながら、なんとも他人行儀な父への言葉。そうは思うけれど、イマイチ世間一般のような打ち解けた会話というものが出来ない。

 今日の父は何故か不機嫌で、ムッとしているだけに、よけいに話しかけにくい。

「その、教会って俺一緒に歩かないとダメなのか? もし歩かなくていいなら、そこパスさせてくれ!」

 父はそんな事を言ってきた。母は眉をしかめたが何も言わなかった。

 そして話が終わったとばかりに、私室に引きこもってしまった。そんな様子を見て母は小さく溜息をつく。

「お父さんね、寂しいのよ。

 百合ちゃんが可愛いから結婚してしまうのが辛いのね。

 最近は子供みたい拗ねてしまって、仕方がない人よね」

 母はフォローするように言うが、それはチョット違うと思う。寂しいのは本当だろう。

 ただ自分のモノが取られるようで嫌なのだろう。

 私は母に曖昧な笑みを返す。

「そうそう、互助会の資料渡さないとね」

 母はそう言って、棚から書類を取り出す。母が子供の為にずっと積み立ててくれていたものだ。

「コレで、ドレス二着と、大陽くんのタキシードも借りられる契約になっているから」

 私はその契約書とパンフレットを見ながら頷く。

「ホテルの方でも、ここの互助会の名前を言って話はすぐに通じたので問題はないみたい」

「そう、良かった。

 そうそうドレスの事だけど……。

 貴方は大丈夫だと思うけれど、短いのとか露出の多いのは止めなさいよ」

 母は嬉しそうに、ゼクシイをめくりドレスを見つめる。その瞳は少女のようにキラキラと輝いている。

 父親からみる娘の結婚と、母親からみる娘の結婚というのは、感じ方はまったく違うようだ。

 結婚準備がどう進んでいるかを気にして、積極的に話しかけてくる。

 私が結婚することになり、逆に親子でする会話の話題が増えて嬉しそうである。

 母は私の頭を撫でる。

「あと、髪の毛はもう切っちゃダメよ。少なくとも結婚式までは」

 私が末っ子という事もあるのだろうか? 母はずっと小さい子のように私を接し扱う。

 私もそんな母に素直に甘えられる事が出来たらいいのだが、私はどうも冷めた態度しか返せない。

「コレ以上短くなったら結えないからね」

 母は『そうそう』となんども頷く。そして暫く黙り、私の顔をジッとみつめてくる。

「何か、困っていることとかない? お金は大丈夫? 大陽くんと仲良くやっているの?」

「うん、何も問題ないし。大陽くんとも結婚準備を楽しんでいるから!

 心配するようなこと何もないよ」

 母に私はいつものようにニッコリと笑いかける。嘘を言っている訳ではないものの、母は私をみて寂しそうに笑った。

「そう、良かった。でも何かあったら何でも相談するのよ」

 私はその言葉にニッコリと頷く。いつからだろうか?

 母と話しているといつも申し訳ない気持ちになる。理由は分かっている。

 そういう親子関係を続けていたからどうしようもなくなってしまっている。

 私は母との会話を終わらせ、部屋に戻り溜息をつく。

 結婚してこの家を出ることは嬉しくてたまらない。でもその前に、ちゃんと向き合わないとダメだと焦る自分もいる。

 親子であっても一度オカシクなってしまうと、何もなかった状態に戻すことは難しい。

 我が家の場合、見た目は普通に平和な家庭に見えている。それっだけに戻すといってもどう戻せばいいのかも分からない。

母の微笑 (L'ora di religione)

2002年 イタリア

監督:マルコ・ベロッキオ

キャスト:セルジオ・カステリット

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