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ゼクシィには載ってなかった事  作者: 白い黒猫
指輪に纏わるエトセトラ
24/40

ロード・オブ・ザ・リング


挿絵(By みてみん)


 婚約指輪は男性が選んだ物を、通常プロポーズの時か、結納のときに贈るのが一般的。

 半ば勢いで結婚する事になり結納もしなかった私達。それぞれの両親への挨拶を終えた段階で、ようやくその存在を思い出す。


「指輪なんだけどね、実は、石だけはあるんだ」

 大陽くんは頭を掻きながら恥ずかしそうにそんな事を言う。

 聞いてみると、一カラットのダイヤモンドの石を婚約指輪用に所持しているという。

 コチラは大陽くんが用意したものではない。彼の亡き祖母が、孫達に結婚する時の為にとそれぞれに用意していたもの。

 孫は九人もいるのに男性女性関係なく用意した。祖母が愛する孫の幸せを願って用意した愛情のこもった石である。その祖母は一昨年に他界して今となっては形見ともいえる品。

「そ、そんな大事な石を使ってもいいの?」

「ココで使わずいつ使うの?! 結婚するんだし百合蔵さんのモノといったら、俺のモノであるのも同じでしょ?」

 一見ジャイアンな台詞だけど、意味している事は逆。彼の大事なものを共に持つ事ができるという事に私は感動する。


 映画ブログ仲間で飲み友達でもあったジュエリーデザイナーのマツコさんに指輪の作成をお願いすることにした。

 一応デザインの勉強をしてきて、しかも一年の時に金工の授業もとっていた私。マツコさんに頼む前、二人で色々意見を出し合いながら、ノートに色々な指輪のデザインを作っていたりもした。

「百合蔵さんの名前から、百合の花をイメージしたのもいいんじゃない?」

 私は百合の花と葉に包み込まれるようにダイヤがついたデザインを描いてみせる。

「それ、いいじゃん」

「でも、コレだと私だけになるから、太陽と月をデザインに入れて二人の苗字が融合というのもよくない?」

 ダイヤモンドを中心に右に三日月に左半分が太陽といったデザインを思いつきノートにそれを示す。

「コレは面白いけど、少しファンシーかな」

 という感じで、二人で十数種類のデザイン案を出した。その中で五つのデザインを持ってマツコさんとの打ち合わせに向かう。

 私達としては、二人で一緒にデザインを考えた指輪を作る事ができるということでいい感じに盛り上がっていた。

 そのデザインも結構自信もあった事で意気揚々とマツコさんに合って、デザインをドヤ顔で披露した。

 しかし帰って来たのは、マツコさんの大きな溜息と苦笑だった。

「二人とも、マリッジリングとエンゲージリングを単なるペアリングと混同していない?」

 アイラインが引かれた瞳でキッとコチラを見つめるマツコさんをポカンと見返してしまった。

「単なるアクセサリーではないの! 契約の証なの! 一生互いを想い合うという」

 テーブルをポンと叩いて語り出す彼女のパワーに推され、二人は黙って頷く。

「相手と一生共にいるという覚悟を示すものなの! 分かる? それだけ特別なものなの」

 マツコさんは私達のデザインに視線をチラリとみる。

「このデザイン、遊び心もあって面白いわよ。でもエンゲージリングはこういう遊びを入れてつくっていいものではないの。

 百合子さんが、五十代になっても、六十代になってもこの指輪を大切にして使っていける。そんな普遍的なデザインであるべきなの」

 たしかに私達のデザインしたものは、使えて三十代くらいまでの、幼いものだったかもしれない。

「なるほどね」

 大陽くんも、マツコさんの言葉に納得したように頷く。

「エンゲージリングというと、表面的にはつくろって、後ろをみると刳ってあるものがあるの。

 プラチナをケチっているものとかあるけど、私はああいったもの許せないのよね。

 そんなごまかしをエンゲージリングにしてくるなんてって感じで!」

 彼女の熱い、エンゲージリングとマリッジリングへというものに対しての講義は楽しかった。その彼女の熱い言葉に、私はマツコさんに指輪の制作をお願いして良かったと素直に想えた。

「私の考えるエンゲージリングとマリッジリング。

 それはプラチナのシッカリした厚みと重さを感じるもの。手に自然に馴染みつつ常にその指輪を心の隅でも意識できるものがいいと思っているの。

 なんなら手に水を受けたときに指輪の所から水がこぼれるくらいゴツくてもよいくらい!」

 私は三日月のようにシンプルなカーブを描いたデザインでお願いすることにした。お祖母様の一カラットのダイヤを中央に埋め込まれる。

 マリッジリングにも小さなダイヤを三つ付いている。エンゲージリングとセットで使うと一カラットのダイヤを囲むように配される。より華やかさを増すようになっている。

 大陽くんは契約書を交わし、ダイヤモンドを渡した。そして私達の指輪はマツコさんに委ねられることになった。


 待つこと一月、その間も楽しかった。

 『職人と会って、原型のチェックしてきました』

 『途中チェックにいったのですが、形状に不満があったので治してもらっています』

 そんな内容で細かくメール報告がきていた。少しずつ、指輪が作られていくのを楽しめるというのも、オーダーならではの楽しさなのかもしれない。

 大陽くんの所に指輪が完成したという連絡が入る。金曜日に三人で新宿の喫茶店で待ち合わせて受け渡しをすることにした。

 二人で約束の喫茶店で待っていると、マツコさんが颯爽とはいってくる。

 彼女が私達の前に差し出した指輪は、想像していた以上に素晴らしいものだった。

 プラチナという金属がもつ独自の重厚感に、緩やかな優美な曲線をもった指輪は何とも言えず美しかった。

 シンプルな分、ダイヤモンドが引き立っていて神々しい輝きを放つ。

 二本のマリッジリング。三つ並べてみると、同じ曲線で形成されており、三つで一つの作品であることがよく分かる。

「つけて見ますか?」

 感動で声を失っている私に、マツコさんはニッコリと笑う。そうして大陽くんにエンゲージリングの指輪ケースをそっと渡した。

 大陽くんがその指輪をケースから取り出す。

「あ、結構重量あるんだね、指輪って」

 大陽くんはそう感想を言いながら私の左手の薬指に嵌めてくれた。

 その指輪は見た目だけでなく思った以上に重さがあった。でも柔らかいフォルムのせいか、付けている実感はあるものの異物感はない。

 私は指輪を嵌めた手を挙げて、大陽くんに付けてみた感じを見てもらう。

 指に感じるプラチナとダイヤの存在感。私は大陽くんと結婚するという事を改めて実感することができた。

 この重さが、大陽くんの、そして大陽君のお祖母様の想いなのだ。

「ありがとうございます。最高の指輪です」

 大陽くんも、私の手をもって満足げに指輪を見つめている。

「本当に良かったね、いい指輪が出来た。マツコさんにお願いして本当に良かった」

 私達の満足しきった顔にマツコさんも嬉しそうに見つめている。

 デザイナーとしてお客様に喜んでもらえるのが最高の幸せなのだろう。自信をもって仕事をしている女性の良い顔をしていた。

「じゃあ、ケースに戻します?」

 私は少し考えて、首を横にふる。

「このまま付けていたいです」

 マツコさんは私の返事にフフっと笑う。そしてケースだけを紙袋にいれて私に渡してくれた。

そして二本のマリッジリングの入ったケースを別の紙袋に入れて、大陽くんに手渡した。

 こういう指輪で私の真横でお金の支払いをされるのってどうかとも思う。しかしこの場合は仕方が無いことなのかもしれない。私はあえて見ないふりをした。


 ※   ※   ※


 喫茶店を出て、二人で手を繋ぎながら高層ビル群の下を歩く。大陽くんの指が、私の指と指輪を撫でている。

「指輪、ありがとう。私の一番の宝物はこの日からこの指輪だよ」

 上から大陽くんのフッという笑う気配がする。

「百合ちゃんが、それだけ喜んでくれたなら、贈った甲斐もあるよ」

 いつもの『百合蔵さん』ではなく、『百合ちゃん』という呼び方。私は思わず立ち止まり顔を見上げてしまう。

 大陽くんは、付き合うようになってから私を時々このように呼んでくれる。彼なりに本音で語りたいときとか、いわゆる恋人同士な時間の時そう呼んでくる。

 大陽くんは、ニコニコと優しい笑みをうかべ私を見下ろしている。なんだろうか、『百合ちゃん』と呼ばれたことが嬉しい反面、凄く照れ臭くなってくる。

 数秒の間、薄暗い歩道の真ん中に二人で立ち止まって見つめ合う。

 薄暗いとはいっても、大陽君の表情が見えないほどではない。でもこの薄暗さと、左手に輝く指輪が私を素直にした。

「本当にありがとう。言葉にならないほど嬉しい。……なんかさ、この指輪をつけてやっと、私渚くんと結婚でするのだ、渚くんと一生共にするんだと思えたんだ。そのことが凄く嬉しくて堪らない」

 大陽くんは大きい目をさらに見開きそして何故か目をチラっと反らす。手で口元を隠し視線を私に戻した。大陽君、照れているようだ。

「俺も、嬉しいよ……スゴク」

 私は大陽くんの大きな身体に抱きつく。その大きさと暖かさを身体に感じ。すごく落ち着いた気分になる。

 上から大陽くんが腕ごと抱えこむように私を抱きしめてくる。身長差が有りすぎる私たち。いつも抱き合うというより私が抱きつきそれに大陽くんが手を添えるという感じになってしまう。

 仕事返りのサラリーマンが帰路につくなか、何をやっているのだろうかとも思う。でも気にせず暫く私達はそこで抱き合っていた。

「あ、あのさ、ゆりちゃん」

 私が上を向くと、照れ臭そうな大陽くんの顔があった。

「なに?」

「今日はまだ、時間あるよね? あのさ……ホテル行かない? すごく、したい」

 同じ気分だったので頷く。そしてギュっと大陽くんのお腹を抱きしめる。私もすごく大陽くんが欲しい。

 そして二人で手をつなぎ、ホテルのある方向へと歩き出した。


ロード・オブ・ザ・リング

The Lord of the Rings: The Fellowship of the Ring

 2001年 アメリカ映画

監督:ピーター・ジャクソン

原作:J・R・R・トールキン

キャスト:イライジャ・ウッド

イアン・マッケラン

リブ・タイラー

ビゴ・モーテンセン

ショーン・アスティン

ケイト・ブランシェット

オーランド・ブルーム

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