最強☆彼女
マレッジブルーって、みんなどのタイミングでなるものなのだろうか?
少なくとも、今の段階では私はまったく陥る様子はない。新しい生活に不安よりも期待の方が大きい。それに今の段階では、目が回るほど忙しいなんてこともなかった。
私はいつもの喫茶店で、白い封筒を薫さんにそっと差し出す。薫さんは、それを神妙な表情で受け取り、そして溜息をつく。
「で、結婚準備はトラブルなしで進んでる?
相手の変態な趣味が分かってきたとか、浮気相手が出てきたとか事ないよね?」
私は『トラブルなしで進んでいるの?』のという言葉を発した段階に笑顔で頷いたものの、その後の言葉に思わず顔が引き攣る。
トラブルってそっち方面ですか……。冗談で言っているのではなく見えるのは気のせいだと思いたい。
彼氏と別れた話の時。『ほんとド変態で最低野郎だったから』とかサラリと凄い事を言ってくることがあった。けれどその辺りについて突っ込んで聞けない怖いところが薫さんにはある。
「それは、ない! 大丈夫!」
薫さんは『ふーん』と小さく言いながら珈琲を飲む。
「私が言うのも何だけど、男って結構色々ややこしい生き物だから、気をつけなよ」
結婚を報告してから、薫さんのメールは、心配する内容のものが増えた。
私の家族、友人の中で一番私の事を案じてくれているようだ。
「ややこしいといったら、私の方がややこしいからね」
そうややこしいのは、男性だけでない。人間そのものがややこしいものなのだ。
私もそうだし、薫さんもそうだ。
私の知っている人間の中で大陽くんが一番ややこしくないように見える。デジタルの世界で生きているからなのだろうか?
というか感情も言動も直球で分かり易い。また、その理由も非常に明確で分かり易い。そこが私には心地よい。
大陽くんからしてみたら、私ってかなり理解不明な所も多いのではないかと思う。
『それがゆり蔵さんだから』といって笑って受け入れてくれる。
「結婚準備ってどういう、スケジュールで進んでいるの?」
私はゼクシイのおまけにあった、結婚用スケジュール帳を広げてみせる。
薫さんはそれを興味津々といった様子でのぞき込む。
「来月から具体的に結婚式の打ち合わせになるの。まだ暇な今月のうちに、衣装あわせとか、家具・家電選びとかしておこうかなと思っているの」
爛々と薫さんの目が輝く。
「衣装! ってウェディングドレスだよね?」
「はい、その通りですが……」
薫さんは両手を合わせて、可愛くおねだりポーズをする。
クールビューティーな彼女だが、こういうポーズすると意外と可愛い。やはり性格の可愛さがあるからなのかもしれない。
「一緒に連れてって! 可愛いドレス選ぶのを手伝うよ!」
確かに薫さんはセンス良い。ファッションに興味がない大陽くんよりもその点は頼りになるのは確か……。 しかし……。
「でも……招待している薫さんには、晴れ舞台で初めて見てもらって感動してもらいたいような」
舞台裏のバタバタは見せたくない。華麗な姿だけを招待した人に見て貰いたいという女心がある。薫さんは、笑顔で首をふる。
「大丈夫! 当日は当日でバッチリ感動をして見せるから!
それに私はウェディングドレスは多分着られないからこうして体験してみたいの。そういう普通の結婚準備の楽しさを味わいたい」
『そんな事ないよ。薫さんならすぐ結婚できるから』そう言いたい。しかしそういう彼女自身ではない私が無責任な言葉をかけられない。
そんな言葉、彼女も望んでいない。
彼女がどれほど苦しんできたのかは、察することは出来る。それは察しているだけに過ぎない。
私に出来ることは彼女の人生を見つめ応援することだけである。
「私の結婚準備、どちらかというとコメディータッチでガッカリしないかな」
「それは、それで楽しいから。
それに勿論衣装合わせ、大陽とかもくるんだよね? ソイツも見てみたいし」
薫さんはニッコリ笑いながら、iPhoneのスケジュールを立ち上げ、予定を書き入れている。
まあ近いうちに紹介もしたかったので、良い機会かなとも思った。
「ブライズメイドとかいるようだったら、喜んでやるよ~」
海外のウェディング映画では、必ず出てくるブライズメイドとグルームズマン(アッシャーともいう)。
かなり欧米化したウェディングだけど、この文化は日本ではまったく根付いていない。
悪魔が幸せ絶頂の花婿花嫁を妬んでチョッカイ出しに来る事の予防の為に複数人花嫁と花婿な恰好をさせる。
誰が花嫁か花婿か分からなくするために目くらましの為にしたことが起源だとか。
しかしそれくらいで混乱する悪魔も大したことはないのでは? 思う。この風習は風習でなかなか面白そうではある。
映画においても、ドレス選びは婚約者というより、友人とキャピキュピと選んでいる事が多い。
「たしかに、あの文化って楽しそうだよね。親友と一緒にもりあがって結婚式を作って行く感じが」
「だよね~。ブライズメイドはないにしても、何でも出来ること手伝うから! 力仕事もいけるし。
やはり今どきの日本の結婚式って二人だけで色々決めていくものなの?」
薫さんはスケジュール帳をめくりオマケページを見ている。結婚準備の心得やノウハウを書いた内容を興味深げに目を通している。
「まあ、今の所そうなのかな~。人によっては、親がお金も出すついでに口も出すって事はあるみたい。
私らは自分のお金でやるし、ウチは両親ももう娘の結婚式は二度目なので飽きたのかあまり興味なさげ。
向こうの両親も『好きにやったらええがな』って状態」
ほうほう、と薫さんは頷き、真剣にスケジュール帳を見入っている。
「衣装選びだけでなく、家電選びも付き合うよ!
私スペックとかカタログを読める女だし、値切るのも得意!」
ウェディング手帳から目を離しニヤリと笑う。
ある意味、最強のブライダルメイドになれる方なのかもしれない。
そして夏美ちゃんに続き、心強い相談相手がもう一人出来たことを私は喜んでいた。
ここで出てくる鈴木薫は、私の『みんな欠けている』シリーズのメインで主役をやっている人物です。何故美人で性格も良い彼女が結婚というものに消極的なのかは、あえてココで語っていません。もしご興味があれば『欠けている』という物語をご覧下さい、
最強☆彼女(武林女大生)
2008年 韓国映画
監督:クァク・ジェヨン
脚本:クァク・ジェヨン
イ・シンホ
キャスト:シン・ミナ
オン・ジュワン
ユゴン
イム・イェジン