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ゼクシィには載ってなかった事  作者: 白い黒猫
指輪に纏わるエトセトラ
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縁 enishi

挿絵(By みてみん)


 今日も会社帰りに、夏美ちゃんと『隠れ家』という喫茶店にいた。このお店はゴツゴツした洞窟っぽい内装をしている。

 文字通り隠れ家っぽい雰囲気が、二人でムフフと楽しむ空間にピッタリなのだ。

 コソコソとムフフな会話を楽しまなくても、堂々と楽しい話を外でしてもいいと思う。しかしこうしてコソコソすると楽しさが倍増するという事もある。

 白いエンボスの浮き彫りがついた大きめの封筒。以前の私は、喜びながら複雑な想いでうけとったモノ。

 コレは、他の人には堂々と笑顔で、手渡している。でも何故か夏美ちゃんへはソッと手渡すというシチュエーションにして、その感じを楽しんでいた。

「確かに、受け取りました」

 夏美ちゃんは畏まった大袈裟な所作で封筒を受け取り、ニッコリと笑う。そして幸せそうに溜息をついた。

「結婚か~いいよね~。

 なんか月ちゃんの結婚準備を見ていると待ちきれなくなっちゃった」

「何をおっしゃる。夏美ちゃんも、今楽しんでいるのではないの~」

 夏美ちゃんは、「ん~」と首を傾げる。

「そうなんだけどね~。逆に今私は、結納とか面倒な部分で、やや憂鬱ゾーンだから」

 そう、夏美ちゃんもまだ会社でも公表はされていないけど来年結婚する。結婚って意外と感染するものなのだ。

 というのは、夏美ちゃんカップルと、私と大陽くん。この四人が、一緒によく出かけることもあり四人で仲良い。

 夏美ちゃんの彼のAVマニアな所と、大陽君のマニアな部分が意外に通じるものがあったようだ。

 彼氏同士が意外と馬が合うことも大きく友人公認の恋人。恋人公認の友人ということで色んな意味で四人の関係を良いものにしていた。

 恋人が出来たら疎遠になる女の友情なんて事は私達にはあてはまらなかった。

 その近さが結婚ドミノ現象をひき起こす。

 私達の結婚の話を聞いて、夏美ちゃん達の間でもそういう話題がされるようになる。そして盛り上がり結婚する流れになったようだ。こういう幸せ感染は素敵だと思う。

「そうそう、見てみて、ブーケ」

「でれも可愛い~! 百合ちゃんのブーケには、やっぱり百合は入れてほしいわよね」

「でも、まあ、先ずはドレスを決めてからだよね。バランスもあるから」

 招待状授与イベントを終えたあとは、二人でブーケについて盛り上がる。

 後にして思えば、私が相談しても『いいんじゃない? それで』という事ばかり言う大陽くん。そこに不満を感じずにいれたのは、一つは夏美ちゃんのお陰なのかもしれない。

 ここで楽しく盛り上がって相談できる人がいたから、私達は楽しく過ごせた。

 私もそんな状態だから大陽くんも、ソレでいいのかと思っていたのだろう。

 お嬢様っぽい楚々とした美人の夏美ちゃんと、元気キャラだと思われている私。

 本当に真逆なタイプなので、二人でよく旅行に行ったりとつるんでいるのを不思議がられることが多い。

 実際考え方、恋愛感、人生観といったものもまったく違う。夏美ちゃんは非常にクールでシビアな思考の持ち主なのである。

 敵を作らず曖昧なグレーなゾーンを泳ぐように生きてきた私。彼女は白か黒とキッチリ世界を塗り分けて生きてきている。

 そんな二人だが同じ時期に恋愛を共に悩み、そして同じようなタイミングで新しい恋をスタートさせた。

 似たような時期に結婚を決意する。この不思議でシンクロしたこの縁に何という名前をつけるべきか私には分からない。

 『友情』という簡単な言葉だけで済ませられるものではない特別なモノを感じた。

 また彼女に対してだけでなく、結婚することになって私は縁というものを様々な場面で感じるようになった。

 それは夫婦となる大陽くんに対してだけでない。他の人へのものも。今自分の周りにいる人達だけでなく、離れてしまった人たちとのこと。私は他者と繋がりあえているんだと感じる。

 結婚前で頭が脳天気で馬鹿になっているだけとも言われそうだ。今は世界の全てが素敵に思えて、以前よりもずっと愛おしいモノに思えた。

 その事を夏美ちゃんに話すと、彼女は顔をしかめる。

「人との繋がりって、そんな無節操に広げても仕方が無いよ!

 私は最低限必要な分だけでいい。多くの繋がりはいらないし、隼雄(はやお)さんにはそんな他人との縁はもっといらない!」

 笑顔での言葉だが、眼が笑っていない。

「そうかな、でもそういう繋がりでもって、成長できたというのもあるよね」

「でも、所詮過去の事。今と未来に生きないと!

 特に不必要な異性の縁は切るべきだよ。

 人って簡単に馬鹿で愚かな行動してしまうものだから」

 でしょ? と、コチラをジッと見つめてくる夏美ちゃん。

 クールで、人との付き合いもサッパリしていると思えた夏美ちゃん。

 実は凄い情が深い。そして嫉妬も深い。

 彼氏である宮崎さんが同僚を送るという理由でも車の助手席に女性を乗せた事も怒る。

 旅行のお土産を会社の女性からうけとったというのも良しとしない所がある。

 黒くんに対してもそう。

 『黒沢くんも、婚約者のいる女性に慣れ慣れしくそんな感じでいるって、どうかと思います』と注意する。

 『黒くんとは、夏美ちゃんが懸念するような関係になるような事ありえないよ』

 私がそう言っても、夏美ちゃんは溜息をつき首を横に振る。

 『百合ちゃんは信頼してるよ! でもあの人は無節操だから!』 と返ってきた言葉に私は苦笑するしかない。

 

 「こないだね、TVでお坊さんが言ってたの。

 『結ばれるのも縁。離れるのも縁。どちも同じように縁で貴方と結ばれているんです』という言葉」

 夏美ちゃんは、ブーケのパンフレットパラパラめくっていた手を止めてコチラを見る。

「別にそれらの縁すべてを、不自然に色つけようとは思ってないの。

 でもそれぞれを大事に思ってもいいのかなと、最近思うんだ。

 自分の居場所が出来たというのも大きいのかもしれない。親とのチョット拗れてしまった関係も、何が変わってしまったわけでもないし。

 コレはコレで私達らしくていいのかな? 受け入れられてきた感じなの」

 夏美ちゃんは、何かを考えるような静かな目でジッと私を見つめる。

「私は、今更親との縁なんて愛おしいなんても思わないけど、月ちゃんはソレでいいと思う。

 縁を感じそれを楽しむのはいいかもね!

 だったら、私との縁。今まで以上に愛しく大事に思ってね」

 ニッコリ笑う夏美ちゃんに、私は『勿論!』と力強く答える。『なら、いいよ』夏美ちゃんは彼女らしい上品で綺麗な笑みを浮かべた。

2011年 日本 83分

監督・脚本:松村清秀

キャスト:谷山紀章

浪川大輔

宮地真緒

夢人

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