ミート・ザ・ペアレンツ 2
結局、お家訪問ではなく、それぞれの家の中間である駅で待ち合わせてのお食事という事になった。
私は心臓をバクバクさせながら待ち合わせに指定された駅の改札を通り抜ける。
私としては、かなり気合いをいれたメイク。上品な淡いブルーのAラインのワンピース。そんなお嬢様っぽい上品な格好で人生で最も緊張したイベントに挑む。
待っていると、Tシャツにチェックのシャツにジーンズという大陽渚がやってくる。先週よりもかなりカジュアルになっていた。
太陽渚が緊張感をまったく感じさせない顔でヘラっと笑う。
「相変わらず、早いね~」
「早めに行動しないと落ち着かなくて。どう? この格好で大丈夫かな?」
のんびりとした、大陽くんの笑顔に、私の緊張もやや緩む。
今日ばかりは、この男が頼りなのだ。
「いいんじゃない? てるてる坊主みたいで可愛いじゃん」
(…………てるてるぼうず……)
「オトンたちは、暑いから、あっちのベンチで座っているって」
ここは苦情を言うべきか悩んでいると、大陽くんはそういって促してくる。それで私は不安に満ちた現実を思い出した。
大陽くんの後について、ファッションビルの一階へと入っていく。通路のベンチに赤いチェックのシャツのバカデカイ中年男性が見えた。大陽くんはそちらにむかって手をふる。
それが、大陽くんの父親。この身長は遺伝なようだ。
お父さんは五十代の筈なのに身長は百八十近くあった。大陽くんによく似たギョロっとした目と体型をしている。何となくそうだろうなと予想していたが、その頭は薄かった。
その男性に隠れるように小さい人影が二つ。大陽くんの母親と妹ならしい。お母さんは小柄でショートヘアーの笑顔が素敵な女性で優しそうだ。
妹さんは、ロングヘアーで目が大きく可愛い子。でもチョットキツそうな性格にも見えた。
彼女の目の形も父親似なようだ。顔のパーツ的には大陽くんと似ているけれど、上手くマイルドに女性的にアレンジが加えられている。
大陽くんの顔のパーツでこんなに綺麗な感じになるのも面白いものである。
「始めまして、渚さんとお付き合いさせていただいています、月見里百合子と申します。宜しくお願いします」
私は出来る限り明るくニッコリ笑いながら、頭を下げる。
お父さんは『おう!』とだけ答えてきた。お母さんは『コチラこそ宜しくね~』と暖かい笑顔を返してくれた。妹さんは緊張した様子で『妹の未歩子です、宜しくお願いします』とペコリと頭を下げてくる。
「こんな所で何だから、どこかに入るか……。月見里さんは……寿司好きかね?」
「はい! 大好きです」
私は頷き、良い子の挨拶をする。そんな私をチラリとだけみて、お父さんは視線をファッションビルの出口へと向けた。
「……そか、なら行くか」
私は頷き、良い子の挨拶をする。そんな私をチラリとだけみる。
「……そか、なら行くか」
ニコニコと親愛のこもった笑顔をくれる母さんや、『百合ちゃんって呼んでいいですか?』と歩みよってくれる未歩子ちゃんとは違い、お父さんの感情が読めない。
怒っているようでもないけど、笑顔なわけでもなく、なまじ体格が良いだけに存在そのものが圧迫感がある。
そして、連れていかれたのは、回転寿司屋。
ボックス席に案内され、お向かいの席に、レーン側からお父さん、お母さんと並ぶ。そしてコチラの椅子に大陽くん、私、未歩子ちゃんと座る。
大陽くんは、座ると同時にレーンに流れるお寿司をホイホイと取り上げている。
未歩子ちゃんは『渚、私マグロ、ウニ、サーモンとって!』と兄を使って目当てのものを取り寄せている。
お父さんもレーンから自分とお母さんの寿司をテーブルにおいていく。私は取りあえず、お醤油皿を配り、茶碗をとり人数分のお茶を作り配ることにする。
「ところで、月見里さん」
お父さんは、三皿くらい食べて、お茶をグビっと一口飲んでから私に話かけてきた。私は慌てて口の中に入っていた寿司を飲み込んでから『はい』と応える。何を言われるのか、分からず緊張する。
「君のお父さんとは、色々縁があってね」
「はい、大学もご一緒だったのですよね。父も今度お逢いするのを楽しみにしているようです」
やはり、私の父同様まずは切り出しやすい所からくるものよね。私の言葉に『そか』とだけ素っ気なく応えるお父さん。
「お父さんといえば……」
「はい」
なんか、父の事だから、昔、大陽くん父にとんでもない事をしたのではないかと私は、内心、ヒヤヒヤしながら頷く。
「まだ、髪の毛はフサフサかね」
そこですか? 十年くらい逢ってない知り合いの気になる所が……。
どう答えるべき? まさか父の頭髪の量が原因で『婚約出来ず』なんて事ないよね?
「ええ、まあ、流石に白髪は増えてきました」
私はあえて、ぼかして表現する。
「月見里さんは、オトンとちがって、フッサフサだったよ!」
なのに、隣で大陽くんはトンデモナイ事を言ってくる。その言葉にチッと舌打ちする、大陽くんの父。その様子に、私はこの方の前では絶対『ハゲ』とか『薄い』とか『ヘアースタイル』いった話題はしないでおこうと、心に誓う。
「ところで、百合ちゃん、どうして渚なんかと結婚しようと思ったの?」
微妙な空気な所に、未歩子ちゃんがまた難しい質問をしてくる。
「え?」
まさか『愛しているから』とかも家族の前で恥ずかしくて言い辛い。
「渚って、怒りっぽいし、横柄だし、良いとこないでしょ?」
「それに、百合子さん、コイツ、オタクだぞ! こんなんで良いのか?」
お父さんまで、そんな事いってくる。結婚に反対はしてないようだ。どちらかというと、私が大陽くんという人物に納得できているかを心配しているようだ。
「オタクなのは私もですし、趣味も同じで楽しくお付き合いさせて頂いております。」
妹は首を傾げている。納得いってない様子だ。まあ、私の兄が結婚相手を連れてきたら、こんな性格の歪んだ兄でいいの? とか聞いてしまいそうだから、こういう感じになるもの仕方がないものなのかしら?
「っま、百合子さんがいいなら良いけどな」
「そうよ、そうよ、こういうのは縁だから。百合子さんがおおらかそうだから、渚でもいいのでは?」
お母さんは、ニコニコ笑っている。ああ、このイベントで、お母さんの笑顔が何よりもの私の最高の癒し。
私も心からの笑みをお母さんに返す。なんかこのお母さんとならうまくやっていけそうだ。
このイベントで良くわかったのだが大陽くんの家族って、基本的に気ままで自由人だ。
それぞれが好き勝手な事をしていて、それぞれが私に話しかけてくる為に一つの話題で盛り上がるという事はない。
なんとも不思議な空気のまま、二時間ほど続く。
『じゃ、そろそろ帰るか、駐車場の時間もそろそろだしな』というお父さんの一言でお開きになる。
「もう一人、下に弟がいるけど、遅くとも結婚式には会えるだろ、じゃ」
そういってお父さんはお母さんと未歩子ちゃんを連れて駐車場の方へと去っていった。
「なぎ左右衛門さんの家族って、かなり自由人?」
私は姿が消えたあとに、隣の大男にそっと訊ねてみる。
「かな? だから、言ったでしょ? ウチの家族は気つかう必要はないって」
確かにそこまで気は使わなくてよいかもしれないけど、別の物を使いまくったようで凄く疲れた。
なんか肩の荷が下りてホッとする。
「凄く喉渇いたから、お茶しない?」
大陽くんは、ニッコリ笑って頷く。
「さっき、向こうで美味そうな、ケーキのお店見つけたよ!」
「いいね!」
さっきお店では緊張であまり食べられなかった。挨拶が無事終わり久しぶりにお腹空いてきたような気もする。
二人でニコニコと笑いながら甘い香りに満ちた世界へと歩き出すことにした。
ミート・ザ・ペアレンツ 2 2004米
Meet the Fockers
監督:ジェイ・ローチ
製作:ロバート・デ・ニーロ
ジェイ・ローチ
脚本:ジョン・ハンバーグ
出演:ロバート・デ・ニーロ
ベン・スティラー
ダスティン・ホフマン