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【天使】養殖・第三話(9)

作者: AMAKA

「もうええ、全部終わらす!」


 そう言うて、【天使長】の嫁が歩き出した。


 そこは、新たになだれこんで来よったゾンビの群れへ『海』属性の『ビンゾ』らが次々に襲いかかり『浄化』していく、いわばゾンビと『ビンゾ』の『汽水域』。つかつか踏みこんでいくと、さっそく女のゾンビが嫁の二の腕にかぶりつき、もう一方の手首を老人の『ビンゾ』がつかんで蘇生を吹きこもうとしよったが。


 それらに一切かまわず【始天使アヅマエル】は一声、


「もろびト、ひじりテ!」


 自身の【準奇跡】を解放した。


 終末論的光景は、当初そんなに劇的なもんやなかった。ゾンビも『ビンゾ』も逃げ惑ってた平常人もみな一瞬、我に返ったみたいに立ち止まり、それからある者は小走りに最寄りの雑貨店に向かい、ある者は古着屋へ飛びこみ、ある者はスマホ取り出し友人をこの場に呼び出そうと話してよる。


 奇妙なんは、一部のゾンビがしばらく迷ったみたいな顔つきしてから、やがておもむろにゾンビウォークを再開しはじめよったこと。そのゾンビっぷりはさっきとは打って変わっていささか肩に力の入った、見てて恥ずかしいほどの臭さと痛さ……。


 ほんで、ある者は。


 ある者はバッグの中からカラフルな服を引っ張り出し、その場で着替えはじめよった。


 それが絶賛大ヒット中アニメのヒロインと同じ軍服やいうことに【天使長】は全然気づけてへん。


 古着屋からそそくさ出てきた【材人ざいにん】が来てたんは、赤っぽいダウンベストやった。店から出るなり「ドク!」「デロリアーン!」などと叫びはじめてよる(まるでそれに答えるみたいに、どこからか「エイドリアーン!」の声)。


 雑貨店から出てきた【材人】がまとってたんは、誰が見てもそれとわかるドラキュラのマント。


 友人を呼び出してた【材人】は、駆けつけた同好の士がバッグから取り出したもんにその場で着替えてよる。大人気ゲームキャラのデフォルトアウトフィット……。


 誰も彼も、目が本気の本意気やった。


 少女は伯母の経営する幼稚園に数年前連れて行ってもらったことを思い出す。園児たちは男女問わず、いま自分が夢中なキャラクターになりきって、びよんぶよんと元気に勇ましく動いてたっけ……。


 ほんで、少女のそんな回想さえ黒う塗りつぶす、さっきから全然やむ気配がないこの基調音。


 扮装した彼ら彼女らが気持ちこめて叫ぶ決め台詞や必殺技名のあいまに、声落として、身い震わして、囁いてよる、この『極相の預言』……。


「モロビトヒジリテ……」

「モロビトヒジリテモロビトヒジリテ……」

「モロビトヒジリテモロビトヒジリテモロビトヒジリテ……」(『【天使】養殖・第三話(10)に続)

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