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第8話【初任務への道】

 翌朝、学園の食堂は新入生で賑わっていた。

 長いテーブルには焼き立てのパンやスープ、果物が並び、活気とざわめきに満ちている。


 本来であればエリカはSクラス待遇として自室で食事を取れるのであるが、親睦を深めたいとのことで食堂まで下りて来ている。

 もちろん他のSクラス生は皆自室におり、誰も食堂へは来ていない。


 俺たち四人も一つのテーブルに座り、ぎこちない空気のまま朝食を取っていた。


「昨日はすごかったですね、エリカさん」

 最初に口を開いたのはリナだった。

 静かな声ではあるが、その言葉は周囲の耳にも届く。


「フレイムハートの名に恥じない炎でした。……私でさえ、あの規模は受け止めきれないでしょう」


 その言葉に、食堂の数人がこちらを振り返る。

 エリカは胸を張り、微笑を浮かべた。だが――ほんの一瞬、その瞳が俺をかすめた。


(……やめろ、俺に振るなよ)


 黙々とパンをちぎりながら、俺は視線を避ける。

 対照的にショウは大声で笑い飛ばした。


「ははっ! 確かにあの炎はヤバかった! 俺なんか本気で吹っ飛ぶかと思ったぞ!」


「落ち着いてください、ショウさん」

 リナが窘めるも、彼はどこ吹く風だ。


 場が和むようでいて、俺には胃の奥が重くなるばかりだった。


「そういえば、他のSクラスの模擬戦も……すごかったですね」

 リナが言葉を継ぐと、ショウは待ってましたとばかりに身を乗り出した。


「おう! レイジ・ヴァルハルトなんてやばかったぞ! 剣を振るっただけで結界が軋んでたんだ。あれ、魔法すら使ってなかったよな!?」


「マユミ・シルバーレインさんの氷の翼も華やかでした。……本当に舞っているようでした」

 リナが静かに言葉を添える。


「でもさ……一番ゾッとしたのはユリナ・ダークネストだろ」

 ショウが声を潜めるように言った瞬間、テーブルの空気がひんやりと冷えた。


「……詳しいことは誰も分かりませんでした。気づいたら相手が倒れていた。……結界越しに見ていた私たちでさえ、何をされたのか理解できませんでした」

 リナの声にもわずかに緊張が混じる。


「ただ……『見られた』だけで息が詰まるような、そんな気配は確かにあった」


 ショウは腕をさすりながら吐き出す。

「正直、あれは人間相手にしちゃダメなやつだ……って思った」


 得体の知れない恐怖と共に口にされた“ユリナ・ダークネスト”の名に、テーブルの空気が一段と重くなる。

 エリカは唇を噛み、拳を握った。

(……そんな中で私が“偽物”だなんて……許されない)


 食後、大講堂に集合した新入生たちを前に、セシリア教官が姿を現した。

 白銀の髪を後ろでまとめ、鋭い眼差しを向けると、場のざわめきがすっと消える。


「これより、チーム単位での初任務を開始する」


 その声は張りがあり、凛としていた。


「舞台は学園の外れにある“第一訓練用ダンジョン”。低階層のみだが、魔物の増加が確認されている。

 討伐と探索を兼ね、各チームの連携を試すことが目的だ」


 周囲がざわつく。

 模擬戦とは違い、今度は実戦に近い。空気が一気に引き締まった。


「役割分担を決めなさい」

 セシリアの指示で、俺たち四人は集まり円を作った。


「先陣は俺が行くぜ!」

 真っ先に手を挙げたのはショウだ。風を纏う彼には確かに適役だ。


「私は守りと回復を」

 リナが静かに続ける。水の結界や治癒なら彼女に敵う者はいない。


「……攻撃は、私が」

 エリカは短く言い放った。自信を装った声だったが、俺にはその奥の揺らぎが分かる。


「じゃあ俺は……後ろで支援だな」

 自然にそう口にした。俺にはそれが一番“平凡”でいられる役割だと思ったからだ。


「よし、決まりだな!」

 ショウが拳を打ち合わせ、緊張を吹き飛ばすように笑った。


 セシリアは俺たちを見渡し、わずかに頷いた。

 その瞳は鋭く、何かを測るような光を宿していた。


(……祖父の言っていた“特別な者”が、この子なのか)


 心の奥でそう呟きながらも、口には出さない。

 与えられた役目はただ一つ――見極めること。


 白銀の教官は静かに言い放った。

「――出発だ」


 その一言で、俺たちの初任務が始まろうとしていた。

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