第81話【糸を引くもの】
王都北門。
セシリアは煙と血の匂いの混ざる空気の中、剣を振り抜いた。
「来なさい――《エアブレード》!」
真空の刃が押し寄せる魔物を一掃し、倒れた影が次々と積み重なっていく。
兵士たちが息を呑み、彼女の背に向かって戦列を整える。
「援軍は来るのか!?」
「来ない! 各地で同時多発的に魔物が出現している! 王都全域で戦力を分散せざるを得ない!」
兵士の悲鳴染みた叫びに、セシリアは眉をひそめた。
(……おかしい。
魔物の種類がバラバラすぎる。
単独で縄張り意識の強い種まで、集団で押し寄せてくるなんて……)
牙を鳴らす狼型魔獣。
金属質の羽を飛ばす魔禽。
さらには洞窟にしか棲まないはずの巨型甲殻種まで。
――まるで、無理やり寄せ集められた軍勢。
(……何者かが背後で動いている……?)
セシリアがそう直感した瞬間、再び押し寄せる魔物の波が視界を覆い尽くした。
「……っ、まだ終わりそうにないか!」
彼女は剣を構え直し、再び前線へと踏み込んだ。
――その頃、遥か離れた“闇の舞台”
月明かりの届かない黒い断崖の上で、
人形の魔人は楽しげに足をぶらぶら揺らしていた。
「クスクス……いい眺めぇ」
長い髪が風に揺れ、指先で操られる魔力の糸が四方八方に伸びていく。
糸の先――
森、洞窟、荒野。
あらゆる土地に生息する魔物たちの“首筋”へ絡みつき、操り糸のように揺れていた。
「ワンワンおいでぇ? 鳥さんは左ぃ、ハサミの子たちは前に集合〜……はい、隊列を崩さないでぇ?」
操られた魔物群は、まるで訓練された軍隊のように動き出す。
――数百。
――数千。
とても個の魔人が一度に操っているとは思えぬ、常識外の規模。
だが、彼女はただ笑っていた。
「人間さんって、群れでしか戦えないくせに、魔物が群れたら大混乱しちゃうのよねぇ。
ほんと、可愛い生き物〜」
道化のような甲高い声が闇に溶ける。
だが次の瞬間――
その声色は、鋭い刃のように冷徹へ変貌する。
「……舞台装置は私が整えてあげたわ。
あとは――あなた次第よ、血霧の魔人」
――血霧の魔人
岩陰に立つ影が、薄く唇を歪めた。
「フハハ……人形の魔人。貴様の“演出”は嫌いではない」
彼の周囲に、どろりと赤黒い霧が広がる。
まるで血潮そのものが煙となったような、重い瘴気。
「王都軍が群れに釘付けなら……黒髪の少年と少女は“野外訓練”のまま、孤立する」
霧が渦巻き、彼の影が歪む。
「次は俺が味わう番だ。
“再生を拒んだ”あの少年の血の味をな……」
紅い瞳が妖しく輝き、姿が霧へと溶けていく。
「さあ――狩りの時間だ」




