第79話【会合】
――闇の底、光なき広間。
石柱が歪んだ影を落とし、四つの魔の気配が沈黙を裂いていた。
「クスクス……剣の坊や、しくじっちゃったねぇ」
甲高く笑いながら、長い髪を振るう女が両手をひらひらと広げる。
仮面の下の紅い唇が大げさに歪む――人形の魔人 《パペット・マスター》。
「でもぉ……無駄じゃなかったのよぉ?」
彼女の指先で糸がきらめき、虚空に吊られた人形たちがぎこちなく踊り出す。
「だってだってぇ、わたしの人形越しに――ちゃあんと見ちゃったんだから。
“消滅”の力。魔族が霧散すらできず、根っこから消えた瞬間を、ね」
「黒髪の可愛いお嬢ちゃん、最近魔族の増えが悪いのはあなたのせいですか~?」
道化のような声音が途切れ、次の瞬間――氷のように冷たい声色に変わる。
「……それよりも黒髪の少年。剣の魔人の再生を拒んだ。これは事実よ」
広間の空気がざわめき、別の巨躯の影が呻く。
「馬鹿な……再生を阻むなど、ありえん」
「だが、確かに起きた」
人形の魔人の双眸が冷ややかに細められる。
「結界の内で、魔力が“器”に戻らず消滅したのよ。今までに例外はありえない。奴は異質だ」
そこへ、血の匂いを纏う気配が口を開いた。
「フフ……くだらんな」
低く艶やかな声。闇の中から現れたのは、蒼白な顔に鋭い牙を覗かせる男――血霧の魔人 《ブラッド・フォグ》。
「再生が一瞬遅れただけだろう。奇跡の一度や二度、恐れるに足らん。
それに……」
赤い舌で唇を舐め、愉悦に満ちた笑みを浮かべる。
「剣の魔人、あれは未熟者のものだった。濃く甘美ではあったが、熟しきってはいない」
「油断は死を招くぞ」
地鳴りのような声で、別の魔人が唸る。
しかし、血霧の魔人は一歩も引かない。
「ならば好都合だ。次は……俺が相手をしてやろう」
その声は甘く囁くようでいて、刃のように鋭かった。
「霧に紛れ、血の一滴まで吸い尽くす。
黒髪の二人が“異質”かどうか、俺の霧が証明して奴らの血潮を味わって来るとしよう」
彼の周囲に赤黒い霧が広がり、広間の空気が濃厚な鉄の臭気に染まっていく。
人形の魔人はひとしきり笑い転げ――そしてふいに、冷徹な声音で結んだ。
「……なら、任せるわ。血霧の魔人。次はあなたが舞台に立つ番よ」
その場にいた他の二体も沈黙で頷いた。
闇に蠢くその影は、血の饗宴を期待するかのように牙を剥いている。
舞台の幕は静かに上がる。
次なる惨劇を告げる合図のように。




