第7話【秘密と誤解】
模擬戦を終え、俺は重い足取りで寮へ戻った。
部屋に入ると、カイトがベッドの上で大きく伸びをしていた。
「おう、戻ったかユウマ! お前、派手に吹っ飛ばされてたな!」
「……まぁな」
俺は肩を回しながら答えた。
不思議なことに、さっきまでの痛みも擦り傷も跡形もなく消えている。
「これ、どういうことだ? 確かに焼かれたはずなのに」
俺の腕をじっと見て、カイトはニヤリと笑った。
「お、知らなかったのか? 訓練場の結界だよ。あそこで負った怪我は、結界を出ると全部消えるんだ」
「そんな便利なもんが」
「ただし痛みは残る。だから油断はできねぇ。王都の魔導師連中が作ったすげぇシステムなんだとよ。
実戦感覚はそのままに、命の危険だけ取り除いてるってわけだ」
俺はベッドに腰を下ろし、大きく息を吐いた。
「なるほどな。確かにあの火球、二度と食らいたくはないな」
「ははっ! でもお前……最後すげぇ助かったな」
「助かった?」
「だってそうだろ。フレイムハートの火球を正面から受けて無事とか、普通あり得ねぇよ。……リナが見かねてバリア張ってくれたんじゃないか?」
「…………」
一瞬、言葉を失った。
本当は俺自身が発動した。だが、そう思ってくれるなら……好都合だ。
「……かもな」
曖昧に笑ってみせると、カイトは納得したように頷いた。
「だよな! やっぱり仲間ってのはいいもんだな!」
能天気に笑う彼を見て、胸の奥に冷たいざわめきが広がった。
いや……あれは俺だ。確かに俺が……
リナがもし「自分じゃない」と言えば、この秘密は崩れる。
だが彼女はまだ、何も言わなかった。
==エリカSIDE==
模擬戦を終えて、女子寮の部屋に戻った。
重厚な扉を閉めると、静寂が押し寄せてくる。
豪奢な部屋。煌びやかなランプ、ふかふかのベッド、書棚にはすでに山のような書物。
――けれど、息苦しかった。
(また……あいつに助けられた)
炎弾は確かに私が放った。けれど、あの規模は私の力じゃない。
そして水の壁――あれも。
「……二属性なんて、ありえない」
呟いた声は、誰にも届かない。
でも、私の中で確信に変わりつつあった。
――あの田舎者、ユウマ・イチノセ。きっと何か秘密を隠している。
それを暴けば、落ちこぼれ扱いの私も本当に強くなれるのかもしれない。
だが同時に、彼の言葉が胸に残っていた。
『平凡でいたいだけだ』
(……私だって、望んでた。普通に生きて……普通に笑って……でも)
家の名がそれを許さない。
“フレイムハート”という名は、逃げ場を与えてはくれない。
拳を握りしめ、ベッドに腰を下ろす。
「……私は、絶対に本物の力を手に入れてみせる」
誰にともなく呟いたその言葉は、決意と怨嗟が入り混じった響きを持っていた。
部屋の豪華さとは裏腹に、心は冷たい孤独に包まれていた。
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==リナSIDE==
模擬戦のあと。
観客席から降りて控え室に戻った私は、一人で深呼吸をしていた。
(……あのときのバリア)
ショウの風刃を防いだのは確かに私。
けれど――ユウマを炎弾から守ったあの瞬間の水の壁は、私じゃない。
「……あれは、彼自身の……」
思わず呟いて口をつぐむ。
ユウマが二属性を使ったのなら、とんでもないことだ。
それが知れ渡れば、きっと彼は目立ち、注目され、利用される。
(でも……どうして、隠そうとするの?)
彼の視線を思い出す。
必死に平然を装っていたけれど、あれは間違いなく“自分の力”だった。
胸の奥に、妙なざわめきが広がる。
秘密を共有してしまったような、不思議な感覚。
「……ユウマさん。あなたはいったい何者なんですか」
水色の髪を揺らしながら、私は誰にともなくそう呟いた。
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