第78話【鏡】
夕暮れの訓練場。
赤い空を背に、リナの全身を包んでいた蒼光がゆっくりと収束していく。
その場に残されたのは、驚きに目を見開く仲間たちだった。
「お、おい……リナ。お前、もうSクラスでも通じるんじゃねーのか!?」
ショウが半ば冗談のように叫ぶ。だが声には驚愕と本気が混じっていた。
リナは深く息を吐き、杖を下ろす。
「……でも、この成長のきっかけは、ユウマさんのおかげなんです」
思わぬ言葉に、ユウマは目を瞬いた。
隣で腕を組んでいたエリカが、怪訝そうに問い返す。
「どういうこと?」
リナは視線を落とし、観測ノートを軽く撫でながら言葉を選んだ。
「先ほど説明したようにユウマさんが魔法を模倣したとき、常に威力が上がっていたわけじゃありません。
でも……エリカさんの《ファイアボール》を模倣したときは、尋常じゃない威力に化けていた」
エリカの眉がわずかに跳ねる。
「それはユウマさんの模倣が威力の底上げをして強くなるから……そう思っていました。
でもあれは――エリカさん自身の潜在能力がそれだけ高かったから」
言葉に、一瞬沈黙が落ちる。
「入学試験は水晶球での測定と実技試験です。ユウマさんが模倣した威力がいくら高かったとはいえ、それだけで学園側はSクラス認定しません。
学園側もエリカさんの潜在能力を評価してSクラス認定したのだと思います」
そしてリナはまっすぐ仲間たちを見渡した。
「模倣は奪う力じゃない。……まだ辿り着いていない未来の自分を、鏡のように映し出す力なんです」
その言葉にユウマの胸が強く揺れる。
ただの再現ではなく、仲間の可能性を写し取っていた――。
ショウがぽりぽりと頭をかきながら口を挟む。
「つまりユウマの模倣ってのは、“俺らが将来出せるはずの力”を映してるってことか?」
リナは小さく頷いた。
「はい。だから、模倣で上回られるのは――“奪われた”んじゃなくて、“示された”だけなんです」
エリカは静かに目を伏せ、唇を噛む。
「……あの時の炎……それが、私の本当の力……」
彼女の瞳に、悔しさと誇らしさが同時に宿る。
エリカを優しく見つめながらリナが続ける。
「私はそのことに気づき基礎を極めようと考え、結果にたどり着いたのです」
ショウは拳を握り、笑みを浮かべた。
「なら次は、模倣なんかに負けない“今の俺”を見せてやるよ!」
ユウマは少し俯き、照れたように苦笑した。
「俺はただ、必死で真似してただけなんだけどな」
リナは小さく首を振る。
「だからこそ、ユウマさんは“仲間の鏡”でいてください。
私たちはその姿を“指標”にして、もっと強くなれる。……基礎を積み重ねてこそ、本当の成長につながるんです」
その言葉は静かだが、確かに胸を打つ響きがあった。
リナの話を聞き、エリカがつぶやいた。
「……高度な魔法の習得を頑張るのではなく、基礎を固めていく……。そうすればユウマが使ったときのような威力に私もたどり着けるかもしれない……」
ユウマは拳を握り、夕陽を仰ぐ。
「平凡でいたいなら、逆に強くならないといけないのかもな」
その背に茜色の光が差し込み、四人の影を長く伸ばしていった。
本日20時に別作品の投稿を始めます。
本作とはまた違ったテイストで書いていますので、ぜひそちらもよろしくお願いいたします。




