第6話【模擬戦と共犯】
訓練場に緊張が走った。
初めてのチーム内模擬戦。最初に選ばれたのは――リナ・アクアリスとショウ・ストームウィング。
「よっしゃあ! 本気でいくぜ!」
ショウが風を纏い、軽やかに駆け出す。
「――《ウィンド・ブレード》!」
鋭い風刃が連続して放たれ、空気を裂いた。
「……《アクア・バリア》」
リナは落ち着いた声で詠唱し、水の半球を展開する。
風刃は弾かれて飛沫と消え、透明な壁は微動だにしない。
「さすが本家……やっぱり硬ぇな!」
ショウは楽しげに攻めを続ける。
そのとき――一つの風刃が逸れ、俺の目の前に迫ってきた。
避けられない……!
目を逸らせず、ただ凝視する。
刃が目前に迫った瞬間――
「《アクア・バリア》!」
リナが咄嗟に唱え、俺の目前に水の盾が展開された。
風刃は呆気なく弾かれ、ただ水しぶきだけが散る。
その瞬間、視界の端に白い本が浮かび、ページが勝手に開く。
《アクア・バリア:模倣完了》
……まただ! 今度は水……!
条件は……ただ見るだけじゃなく、“発動時の魔力への近さ”か……?
胸の奥に冷たい感覚が刻まれ、俺は息を呑んだ。
「――これで終わりです。《アクア・プリズン》!」
水の渦がショウを包み込み、牢獄のように閉じ込めた。
「うおっ!? くそ、動けねぇ……参った!」
教官の声が響く。
「勝者、リナ・アクアリス!」
観客席から歓声が上がる。
「すげぇ……これでAクラスなのか?」
「じゃあSクラスはどれだけ強いんだ……」
「はぁ……参った参った!」
水牢から解放されたショウが大げさに頭をかきながら笑った。
「いやぁ、これが水の本家の力か。俺なんかまだまだだな!」
軽口に観客席の緊張もほぐれ、場の空気が和らぐ。
「ショウさんが弱いわけではありません」
リナは静かに首を振った。
「ただ、私が水に慣れていただけです。……でも、手加減なしで来てくれて、感謝しています」
彼女の真摯な言葉に、ショウは照れ笑いを浮かべる。
「お、おう! そりゃ全力でやらなきゃ失礼だろ!」
そのやりとりに、自然と俺も頬が緩んだ。
――だが、隣に立つエリカの表情は硬いままだった。
次の組み合わせが告げられる。
「――ユウマ・イチノセ、エリカ・フレイムハート」
訓練場に再び緊張が走った。
「始め!」
だが、エリカが放った炎弾は小さい。
観客席から失笑が漏れる。
「……これがフレイムハート?」
「落ちこぼれだな」
エリカの肩が震える。
「手加減しているのか?」
教官――セシリア・グランの声が鋭く響いた。
「全力を出せ。でなければ模擬戦の意味はない」
その眼差しはただの叱責ではなく、何かを見極めようとする冷ややかさを宿していた。
(……やはり、祖父が言っていたのはこの子のことか?)
その言葉に、エリカはさらに追い込まれる。
……やるしかないか…
俺は覚悟を決め、エリカがファイアボールを発動するタイミングに合わせ、胸の奥の炎を解き放った。
――だが外から見れば、それはエリカの手から放たれたようにしか見えない。
「――燃えろ、《ファイアボール》!」
巨大な火球が轟音を響かせ、俺に襲いかかる。
「でかっ……!」
「これがフレイムハートの本気か!」
観客は炎に圧倒され、大歓声を上げた。
「……っ、《アクア・バリア》!」
俺は両手を突き出し、水の盾を展開する。
炎と激突し、轟音と水蒸気が訓練場を覆った。
だが炎は押し破り、俺の体を吹き飛ばす。
転がる俺を見て、観客席からどよめきが上がる。
「フレイムハートの炎、すげぇ……!」
「やっぱり四大一族は別格だ!」
皆が炎を讃え、エリカを称えた。
――だが、水について触れる声は一つもない。
ただ一人、教官セシリアと。
そして観戦していたリナだけが。
(ユウマ・イチノセは入学試験で炎属性の魔法を使用していたはず……二属性……?)
二人の視線が、俺を鋭く射抜いていた。
模擬戦を終え、エリカと俺は訓練場の端へ下がった。
観客席からはまだ「フレイムハートすげぇ!」と歓声が続いていた。
炎の話題で持ちきりだ。
歓声に包まれる中、彼女は低く呟く。
「……どういうつもり?」
背後から冷たい声が飛んだ。
振り返ると、エリカがじっと俺を睨んでいた。
その顔は怒りとも不安ともつかない複雑な色を帯びている。
「何がだ?」
「とぼけないで。あの火球も、水も……あんたでしょ」
息が詰まる。
――やはり、誤魔化せる相手じゃない。
「……誤解されてよかったじゃないか。みんな、お前の力だと思ってる」
俺は努めて平然を装いながら言う。
「そうやって押し付けて……私を笑ってるの?」
「落ちこぼれと囁かれるのも、天才と祭り上げられるのも、どっちも嫌なのよ……」
「違う。ただ……平凡でいたい俺にとって、目立たないで済むなら助かるだけだ」
互いの思惑が交錯し、しばし沈黙が落ちた。
やがて、エリカは小さく笑みを浮かべた。
その笑みには棘があった。
「……なら、取引しましょう」
「取引?」
「私の“偽りの力”を支える代わりに、あんたも安全に平凡を演じられる。
お互い秘密を握ってる以上、共犯関係ってわけね」
彼女の瞳は鋭くも、どこか必死だった。
……共犯、か
俺は拳を握りしめた。
望んでいなかったはずなのに、もう後戻りできない気がしてならない。
「……わかった。だが、無茶はするなよ」
「誰に言ってるのかしら」
「私はいずれ、――絶対に本物の力を手に入れてみせるのよ」
エリカは強気に言い放つが、声の奥には微かな震えが混じっていた。
――こうして俺とエリカは、互いに秘密を抱えた共犯関係として歩き出すことになった。
ユウマとエリカの共犯関係が始まりました。
ここから物語が動き出す形になります。
ストック使い果たしてしまったので投稿頻度は落ちますが、話は考えてあるので1日1投稿はできるように頑張ります。




