第66話【恐怖を喰らう】
「――《クリムゾン・チェイン》!」
エリカに続き、ユウマも同様の魔法を発動する。
ユウマが放った《クリムゾンチェイン》が魔人を再度拘束する。
赤黒い鎖は、エリカのそれと同じ姿をしながらも、質がまるで違った。
「……同じ魔法が通じるとでも思ったか?」
魔人が鼻で笑い、腕をひねる。
鎖はきしみ、火花を散らす――だが。
「な……!?」
先ほどエリカの鎖を瞬時に引き裂いた時とは違う。
ユウマの炎鎖は、明らかにそれ以上の強度を誇っていた。
わずかに――ほんのわずかに。
魔人の動きが止まった。
先ほどとは比べ物にならぬ強度で肉体を締め上げ、裂くまでにわずかな隙を作り出した。
その刹那――。
「……これで、仕留める」
セシリアが最後の魔力を練り上げ、空間に白光を走らせる。
炎でも氷でもない、属性を持たぬ純粋な魔力が形を帯び、一本の刃を形作った。
色も熱も持たず、ただ存在そのものを否定するかのような“無色の剣”。
「――《アストラル・エッジ》」
高らかに告げられた名と共に、刃は振り抜かれる。
次の瞬間、空間そのものが裂けた。
魔力の奔流ではない。風圧でも斬撃でもない。
――理そのものが断たれた。
魔人の肉体は抵抗すら許されず、まるで存在そのものを拒絶されたかのように両断される。
黒靄が霧散し、戦場は一瞬だけ光の粒子に包まれた。
「やった……のか?」
誰かが息を呑む。
セシリアは剣を手放し、荒く息を吐いた。
勝利の予感が胸に広がりかけた、その時――。
斬り裂かれたはずの肉体が、黒靄と共に即座に再生を始めた。
結界に絡む魔力が脈打ち、再びその姿を形作っていく。
再生しながら、魔人は低く笑った。
「……へぇ、面白ぇ力を持ってやがるな。
本当は“なり立て”みてぇな半端もんの魔族の力を吸収して、力を戻すつもりだったが……」
にやりと唇が歪む。
「思わぬ収穫だな。こんなオモチャが転がってるとはよ」
その言葉に、セシリアも、Sクラスの生徒たちも表情を強張らせる。
魔人はゆっくりと肩を回し、再生し終えた体を確かめるように拳を握った。
「油断しちまったが……結界を張ってあるから再生のたびに力が霧散する心配もねぇ」
嗤いが戦場に響く。
「むしろ……お前らが俺にビビってくれるおかげで、力が増してきたみたいだ。
これなら――爺にやられる前と同じくらいまでは持ち直したかもな」
恐怖が戦場を覆った。
確かに勝ったはずなのに、敵はなお健在。
そして何より、その力は増している――。
ユウマは荒れる呼吸を抑え、セシリアの放った《アストラル・エッジ》の残滓を思い出す。
あの刃を、詠唱の最初からすべて目に焼き付けた。
だが、拳を握る手は汗で濡れていた。
問題は……一度きりだ。俺の技量では魔人が油断している一度しか通用しない。
結界は閉ざされ、逃げ場はない。
魔人の嗤いが響く中、ユウマの胸には重い決断が芽生えつつあった。




