第65話【抗う四つの影】
土煙が晴れていく。
倒れ込む一年Sクラスの生徒たちの中で――なお無事に立っていた者がいた。
エリカ・フレイムハート。
彼女は息を荒げながらも杖を握りしめ、無傷のまま立っている。
それはただ一つ、ユウマの隣にいたからだった。
彼が咄嗟に張り巡らせた防御の水壁が、彼女を守ったのだ。
(……助かった。けど――ここからは、私も戦わないと)
エリカの視線は、黒いバイザーをかけた“魔人”へと注がれる。
その頃、ユリナが静かに一歩踏み出していた。
紅紫の瞳が妖しく光り、闇が地を這う。
「――《アビス・グラフト》」
影の腕が無数に伸び、魔人の四肢を絡め取ろうと迫る。
だが――。
「……くだらねぇ」
低く吐き捨てると同時に、影に触れた魔人の腕が変質した。
肉体が黒刃へと変わり、影の手を即座に斬り裂いていく。
紅紫の瞳が細められる。
(……触れるだけで斬られる。やはり、この程度では通用しないようね)
模倣を避けるため、距離を取っていたことが、逆に威力を落とす結果となっていた。
しかし、その一瞬を逃さなかったのはエリカだった。
「――《クリムゾン・チェイン》!」
紅蓮の鎖が奔流となって走り、魔人の身体に絡みつく。
以前の不完全な術とは違う。今度は強度を増し、確かにその巨体を締め上げていた。
「……おお?」
魔人の表情に、初めてわずかな驚きが走る。
(効いてる……!)
エリカが胸の奥で歓喜を覚える、その刹那。
「――だが、足りねぇな」
魔人が腕を振り上げた。瞬間、絡みついていた炎鎖は音を立てて引き裂かれ、粉々に砕け散る。
その注意が逸れた一瞬を、セシリアは見逃さなかった。
「はぁっ!」
鋭い踏み込み。白刃が閃く。
同時に、レイジも低く吼えて剛剣を振り下ろした。
だが――。
「遅ぇ」
魔人はわずかに身をひねるだけで、両者の攻撃を受け止めた。
火花が散り、剣圧が空間を裂く。
次の瞬間――レイジの剣が、粉々に砕け散った。
「な……っ!?」
彼の手に残ったのは、無残に折れた柄だけ。
セシリアの剣すら押し返され、彼女は後方へと弾き飛ばされる。
圧倒的な力の差が、戦場を支配する。
それでもなお、ユウマの手は震えていなかった。
このままじゃ押し潰される。けど、俺にしかできないことが――あるはず。
紅蓮の炎が彼の掌に揺らめく。
魔人の瞳が、わずかにその輝きを見た。




