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第60話【出陣の道】

 王都の外れへ向かう馬車の列。

 夕刻を過ぎ、車輪の音と蹄の響きが重く空気を揺らしていた。


 揺れる座席で、ユウマは無言のまま外を眺めていた。遠くに見える森の影がやけに濃く、胸の奥にざわめきが残る。


「おいユウマ、緊張してんのか?」

 隣のショウが肩を軽く叩いてきた。


「別に。……ただ、また“あれ”が出るんじゃないかって考えてただけだ」


 そう言うと、向かいに座るエリカが杖を抱きしめながら唇を結ぶ。

「瞳のない魔物、でしょ。……正直、私も怖い。だって鎖じゃ封じても消えなかった。あの時はユウマがいたから良かったけど……」


 リナはノートを閉じ、淡々と続ける。

「ですが今回、三年生と二年生のSクラスが主体です。……学園の最上位戦力が動員されている以上、最悪の事態は防げるはずです」


 淡々とした言葉だが、その瞳の奥に焦燥が宿っていることをユウマは見逃さなかった。


 馬車が停まる。

 集合の号令がかかり、各学年の代表格が前に並んだ。


 三年Sクラス。王都最強と謳われる上級生たちが、重厚な気配を放ちながら武具を整えている。

 その脇に、無表情で立つアカネ・クロガネの姿があった。

 彼女の放つ気配は、並び立つ三年生たちをも圧していた。まるで「ここにいる限り誰一人通さない」と無言で宣告しているかのように。


 二年Sクラスも合流し、陣容は厚い。


 そして一年生――。

 Sクラスの七名と、ユウマを含む選抜メンバー数名が前に出る。


「一年生の任務はダンジョン外での迎撃。内部突入は上級生が対応する。……お前たちはあふれ出す魔物から街道を守れ」

 セシリア教官が低く告げる。


「了解!」

 一年生たちが声を揃える。だが、その声に僅かな震えが混じっていた。


「私もダンジョン外にて待機している。不測の事態が生じた際は私が対応するのでお前達には危険は及ばない、心配するな」

 一年生の不安を察したセシリアが安心させるために告げる。


 役割分担が下されると、自然と仲間同士で輪ができる。


 サクラが扇を閉じ、薄緑の瞳をユウマへ向ける。

「外とはいえ……派手な舞台になりそうですわね。イチノセ君、また“主役”を奪っていかないでくださいな」


「……そんなつもりはない」

 苦笑で返すと、マユミが冷ややかに割って入る。

「つもりはどうであれ、結果は同じでしょう。――また"あれ"が出てきた場合あなたしか消せない。条件がそうなら、誰がどうあがいても変えられないわ」


 その言葉にエリカの瞳が揺れる。

「……じゃあ、私たちは結局脇役なの?」


 沈黙が広がりかけた瞬間、ユリナが紅紫の瞳を光らせて口を開く。

「勘違いしないことね。私が協力しているのはアカネ先輩の指示だからよ。……でも、あなたを放っておいて魔物が増えるのは見ていられない。だから仕方なく力を貸してあげる」


 ツンとした声音に、ユウマは思わず肩をすくめた。

「ありがたいことだな」


 ほんの一瞬、場の緊張が緩む。だが次の瞬間、ダンジョン奥から轟音が響いた。


 土煙が立ち上り、冷たい風が吹き抜ける。


 三年Sクラスと二年Sクラスが武器を構え、アカネが一歩前に出る。

「ここから先は我々が入る。お前たちは外で迎撃に集中しろ」


 その背に重なる影は、巨大な脅威の予兆だった。


 ユウマは拳を握りしめる。

 また始まる……俺が前に出れば出るほど、“平凡”から遠ざかっていく。けど――俺にしかできないことがあるなら

「やるしかない」


 紅紫の瞳が横で煌めいた。

 互いに言葉は交わさずとも、並び立つ影は戦場へと足を踏み入れる準備を終えていた。

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