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第55話【異質な存在】

 学園長室の空気は、沈黙で張り詰めていた。

 アカネが「転生者」であることを告げた直後――今度は学園長が口を開いた。


「……次は、“瞳のない魔物”について説明しよう」


 低く重厚な声が室内を震わせる。


「奴らは通常の魔物とは異なる。死亡時の怨念が強すぎて輪廻の輪から外れた魂が、行き場を求めて魔物に憑依した存在だ。

 本来なら来世へ還るはずの魂が停滞する――先が見えぬがゆえに“前を見る瞳”を持たない」


 ユリナがわずかに息を詰める。

 セシリアは眉をひそめ、言葉を飲み込んだ。


「行き場を失った魂は、魔物の力を大幅に底上げする。

 実力者であれば倒すことはできるが、魂そのものは還らず、別の魔物へと憑依し続ける……」


 ユウマの脳裏に、黒い靄となって群れに広がった光景がよみがえる。


「完全に消滅させられるのは、世界から魔力を直接引き出す“転生者”のみ。

 ゆえにイチノセ、そしてクロガネ、学園ではお前たちが唯一の鍵となる」


 言葉は重く、揺るぎなかった。


 さらに学園長は続ける。


「そして――奴らを意図的に生み出す組織がある。

 魂を魔物ではなく“人”に憑依させた存在。それが“魔族”だ」


 その一言に、室内が凍りつく。


「魔族は桁違いの力を持ち、纏う魔力は闇に酷似する。

 それゆえに……ユリナ・ダークネスト。お前を呼んだ理由はここにある」


 学園長の鋭い視線が紅紫の瞳を射抜く。


「お前の闇は、魔族の揺らぎを“違和感”として感知できる。

 わずかな兆候を察知できるのは、お前しかいない」


 ユリナはゆっくりと目を細める。

「……私が、探知役というわけですのね」


「だが同時に、危険も孕む」


 学園長の声色が一段低くなる。


「属性が近すぎるが故に、憑依されれば真っ先に取り込まれる。

 靄が身体に入り込めば、消滅どころか――魔族へと変貌する可能性もある」


 セシリアが思わず口を開く。

「……その危険を承知で呼んだのですか、学園長」


「承知の上だ」

 迷いのない眼差しで学園長は頷いた。

「だが、彼女でなければ感じ取れぬ気配がある。魔に近い者だからこそ、可能なのだ」


 ユリナは皮肉めいた笑みを浮かべた。

「つまり私は、餌でもあり観測者でもある……そういう役目ですのね」


 アカネが静かに言葉を重ねる。

「だからこそ言ったはずだ。イチノセとユリナ、二人で対処しろと」


 ユウマは奥歯を噛みしめる。

 俺じゃなきゃ消せない。ユリナじゃなきゃ感知できない。……つまり、俺たちは最初から“組まされている”ってことか。


 胸のざわめきが重く広がる中、ユウマは口を開いた。


「一つ、聞いてもいいですか」


 視線が一斉に集まる。ユウマはためらいながらも言葉を続けた。


「もし……転生者がいない場所で“瞳のない魔物”が現れたら、その時はどうしているんですか?」


 学園長はしばし黙考し、やがて静かに答えた。


「完全に消滅させることはできぬ。だが倒せば倒すほど、憑依の靄は広がって薄まる。

 怨念が希釈されれば、その分、憑依された魔物の脅威は落ちていく。

 周囲の魔物を全て殲滅すれば、憑依先が失われ、魂は次に怨念を強めるまでしばしの猶予を与えることができるのだ」


 その言葉にユウマは小さく息を呑んだ。

 つまり……“俺”がいない場所でも、誰かが必死に時間を稼いでいる。けど結局、それじゃ根本的な解決にはならない……


 重苦しい現実が胸に沈み、ユウマは拳を握りしめた。


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