第52話【戦闘の余韻】
焼け焦げた石畳の上に、ようやく静けさが戻っていた。
凍り付いた魔物の残骸は光の粒子となって消え去り、風と焦げの匂いだけが漂っている。
「……全員、よく戦ってくれた」
低い声と共に、セシリア教官が戦場へと歩み込んできた。
いつも通り整然とした足取り。戦場を一瞥するだけで、生徒たちの緊張が引き締まる。
その横で、アカネ・クロガネが腕を組んで立っていた。
拳には戦闘の痕が残っているはずなのに、息はまったく乱れていない。
ダンジョンの奥で一人、群れを相手にしてきたとは思えぬ姿だった。
「詳細は――明日話す」
アカネはユウマとユリナに視線を据え、淡々と告げる。
「お前たち二人には説明しなければならないことがある。時間を作れ」
その言葉に、ユリナの顔がぱっと華やいだ。
「まあ♡ わざわざ“わたしの”ために時間を作ってくださるなんて……アカネ先輩ったら特別扱いが過ぎますわ~」
手を胸に当て、やや大げさに首を傾げる。
ユウマは思わず額を押さえる。
こんな時にまでやるのかよ、こいつ……
セシリアは一瞥をくれるだけで、無言のまま踵を返した。
アカネも「明日だ」とだけ言い残し、その背に続いていく。
残されたSクラスの面々が、ユウマに視線を寄せてきた。
「……今日のあなたは、仮初なんかじゃなかったわ、私も少しは力になれたかしら」
エリカは静かに言い残し、杖を抱きしめながら歩き出す。
サクラは扇を揺らし、淡い笑みを浮かべた。
「主役の座、悪くはありませんわね。……次はもっと華麗に踊っていただきますわ」
マユミは冷徹な声音で短く告げる。
「今のあなたは“条件”そのもの。私の力の一端を差し上げたこと、忘れないことね」
三人はそれぞれの思いを残し、寮の方向へと去っていく。
残された生徒たちは、互いに視線を交わした。
「アカネ・クロガネ……なぜあの実力で三年のCクラスに留まっている……」
1年Sクラスの誰かが低く呟いた。
実力はどう見てもSクラス上位。
むしろ、今の1年Sクラスの誰よりも「圧」をまとっているのに。
その違和感が全員の胸に刻まれていく。
ユウマは焦げた戦場を見渡し、胸の奥に重いものを抱えた。
俺にしか消せない魔物。アカネ先輩も同じように消滅させていた。……偶然じゃない。二人に共通する“何か”がある。
平凡でいたい――そう願っていたはずなのに、逃げ場はもうないのかもしれない。
拳を握る。
胸のざわめきは収まらず、夜風が冷たく頬を撫でた。
――こうして戦いの余韻と疑念を抱えたまま、物語は新たな展開へと踏み出していく。
ここまでを2章として一区切りにします。
次回からは3章に突入し、少しずつ謎が明かされていきます。




