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第51話【凍てつく破滅】

 戦場に氷の杖を掲げたマユミが一歩進み出る。


「瞳のない魔物と区別して戦うのは面倒ですわ。……ユウマ、これをよく見て覚えなさい。一度しか見せないから」


 その声音は冷たく、揺るぎがなかった。


 ユウマは思わず息を呑む。至近距離で、しかも詠唱の最初から――模倣の条件はすべて揃っている。


 狙ってやっているのか? 完全に俺が模倣できることを前提で話してやがる。


 マユミの周囲に冷気が奔り、白銀の術式が組み上がっていく。その瞬間、ユウマの視界の片隅に淡く光る“白い本”が浮かび、ページがひとりでにめくれた。文字と氷の紋様がそこに刻まれていく。


「《アイス・カタストロフ》」


 凍てつく奔流が戦場を覆い、群れの半数以上を一瞬で封じ込めた。


 ユウマは眉をひそめ、杖を強く握り直す。ページが閉じ、術式の手応えだけが残る。


 もうこいつらには隠し通せないな。


「――《アイス・カタストロフ》!」


 冷気が奔り、マユミの術式と寸分違わぬ氷嵐が重なって戦場を呑み込む。


 氷嵐に巻き込まれてなお、マユミの氷に触れた瞳のない魔物だけは黒い靄をまとって再生を始める。


「……やはり、面倒な連中ね」

 ユリナが裾を払うと、影が再び広がる。

「《アビス・グラフト》」


 地を這う闇から無数の手が伸び、異形の四肢を掴んで影の中に縫いとめた。呻きは虚しく、爪も牙も振り下ろせない。


「封じておいてあげるわ。……増える前に片付けなさい」


 その声音は冷徹で、役割を当然のように振り分けていた。


 そこへサクラが優雅に扇を翻す。


「舞台は整えて差し上げますわ」


 風が渦を巻き、魔物たちを次々と押し流して一か所へと追いやる。暴風の導きはあくまで華麗、捕らわれた群れはまるで舞台上の役者のように並べられた。


 ユウマはその光景に息を詰めた。


 完全に“見せ場”を作られてるようだな。


 だが、扇の奥の薄緑の瞳は真剣だった。――本気で、彼を“主役”に据えようとしている。


「やるしかないか」


 ユウマが氷の紋様を脳裏に描き出す。


「《アイス・カタストロフ》!」


 白銀の奔流が広がり、風に誘導された魔物たちを一息に呑み込む。凍結し、砕け、光の粒子へと変わる。黒い靄は舞い上がらず、戦場は一瞬で静まり返った。


 紅紫の瞳が細められる。ユリナが闇を解きながら、低く呟いた。


「……闇の気配が、薄れていく」


 その言葉に重なるように、洞奥から響く靴音。


 ――コツ、コツ、と乾いた足音が岩壁に反響する。


 現れたのは、長い黒髪をなびかせ、拳を鳴らすひとりの女。


 アカネ・クロガネ。


 衣の裾は裂け、拳には魔物の血がこびりついている。だが、その呼吸は乱れていない。むしろ、洞窟の奥から魔物の群れを一人で相手にしてきたとは思えぬほど、平然とした足取りだった。


 ただ歩いてくるだけで、戦場に漂っていた緊張が音を立ててほどけていく。


 彼女が視線を投げると、それだけで剣呑な気配は霧散し、残された魔物の気配すら萎縮したかのように見えた。


「……随分と派手にやったな」


 低い声音は余裕に満ちている。


 だが、その拳から滴る赤黒い雫が何より雄弁に物語っていた。――彼女がただの観戦者ではなく、洞窟奥の脅威を一人で受け止め、打ち砕いてきたことを。


「よく持ちこたえてくれた。……これで、ひとまずは終わりだ」


 静かな言葉に、一年生たちは思わず息を詰めた。


 炎と氷と風、そして闇。


 役割を分け合い、共に戦った彼らの戦場に――絶対的な強者の帰還と共に、ようやく静寂が訪れた。

戦闘が本格化するとどうしてもエリカさんの影が薄くなってしまう……

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