第49話【槍の秘密】
――戦場に重苦しい空気が流れていた。
ユウマの《フレイム・ランス》で異形の一体が完全に光へと砕け散った直後。
それは、他の誰も成し得なかった「完全消滅」だった。
Sクラスの面々が、一斉に彼へ視線を向ける。
「……ただの炎槍で、か」
レイジが唸るが、剣を収めカズマに指示を出した。
「槍では俺の出番ではない、任せたぞカズマ」
レイジに代わり今にも飛び出そうとしていたカズマ・フェルドランスが前に出る。
「なら、俺が証明してやるぜ。《サンダー・ランス》!」
雷光の槍が走り、異形を貫く。轟音と共に肉体が砕け散ったが――。
黒い靄となって広がり、すぐに周囲の魔物へと取り憑いて再生する。
「……雷槍では駄目だってか」
カズマは不快げに舌打ちした。
次にマユミが一歩進み出る。
「私も試してみましょう。《アイス・ランス》」
氷の槍が疾走し、異形を凍てつかせ粉砕する。だがやはり――黒い靄が立ち上り、元の姿へと戻ってしまった。
「術式の完成度ではなく、別の要因ね……」
マユミの瞳に冷静な分析が宿る。
サクラが微笑みと共に扇を閉じた。
「では、私も。《ウィンド・ランス》」
鋭い風の槍が異形を裂き、霧散させる――が、やはり靄となって別の個体に移り変わる。
その光景に、サクラは扇で口元を隠し、目を細めた。
そこで、エリカが一歩踏み出した。
「……なら、私も同じ炎で試してみる。《フレイム・ランス》!」
炎の槍が疾走し、異形を焼き貫く。
爆炎と共に肉体が砕けるが――やはり黒い靄が立ち上り、別の魔物に移り変わった。
「……っ、私の炎じゃ……駄目なの?」
エリカの手が小さく震える。
その姿を見て、サクラが扇を軽く揺らしながら言葉を落とす。
「……同じ炎でも、結果はまるで違いますわね、これは威力や属性の問題ではございませんね」
マユミも頷き、冷ややかに言葉を添える。
「……やはり、ユウマ・イチノセ。あなたにしかできない条件がある」
背後で見ていたエリカは、唇を噛みしめながらユウマを見た。
「同じ魔法なのに……どうして、あなたは消せるの……」
その問いにユウマは答えられなかった。ただ炎を握り、心に熱を宿す。
サクラがユウマの正面へと進み出る。
「面白いですわね。――ならば」
扇を翻し、彼女の風がユウマの全身に纏わりつく。
「《テンペスト・ガーディアン》」
ユウマの体を旋風が包み、足取りが軽くなる。呼吸すら滑らかになり、炎の魔力が鮮明に練り上がっていくのを感じた。
「あなたを“主役”にする舞台を整えるのも、わたくしの役目ですわ」
薄緑の瞳が挑むように煌めく。
その様子を見たマユミが、静かに呟く。
「……ユリナも、サクラも。彼と直接相対した二人が“認めている”。なら、これは偶然ではない」
レイジは剣を担ぎ、吐き捨てる。
「俺はまだ認めん。……だが、ヤツに“何か”があるのは確かだ」
エリカは強く杖を握り、決意を胸に刻む。
「なら、私も追いつく……必ず」
ユリナは黙ってその光景を見つめていた。
やがて、紅紫の瞳を伏せて小さく吐息を漏らす。
「……勘違いしないことね。私はあなたを認めたわけじゃない」
その声音は冷たく、それでいてどこか抗えない強さを秘めていた。
「ただ、アカネ先輩が“あなたと共に”と言った。だから――仕方なく従うだけよ」
ユウマは短く頷いた。
「それで十分だ。……一緒にやるぞ」
風の加護を纏い、炎を握りしめながら彼は前に出る。
その瞬間、黒い靄が渦を巻き、さらに数体の異形が姿を現した。
闇と炎が交錯し、戦場の中心に二人の影が並び立つ。
――炎と闇、共闘の戦いが始まろうとしていた。




