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第4話【入学式】

 翌朝。

 寮の鐘が鳴り響き、俺は眠い目をこすりながら起き上がった。

 隣のベッドではカイトがすでに制服に袖を通している。


「おう、ユウマ。今日はいよいよ入学式だぞ」


 窓から差し込む朝日を浴びながら、俺も制服に着替える。

 黒を基調にした西洋風の衣装に、学園の紋章入りのマント。

 田舎育ちの俺にはどうにも落ち着かない格好だった。


(……やっぱり似合わねぇな。俺は平凡で、畑仕事でもしてる方が似合うんだよ)


 そう思いながらも、カイトと一緒に寮を出て、大講堂へと向かう。



 大講堂は新入生たちで埋め尽くされていた。

 天井から吊るされた魔導灯が眩しく輝き、まるで王宮の謁見の間のような荘厳さがある。


 壇上に姿を現したのは、白髪の老人だった。

 杖をつき、厳格な眼差しで会場を見渡す。


「王都学園へようこそ。我は学園長、オルディス・グランである」


 張りのある声が講堂に響き渡り、自然とざわめきが静まる。


「この学園は、力を示すだけの場ではない。己が力を制御し、責任を学び、王国を支える柱となる人材を育てる場所だ。

 四大一族はその象徴。だが、名門の血を持たぬ者であろうと、努力と才覚次第で歴史に名を刻むことができる」


 堂々とした言葉に、会場中の新入生たちが息を呑む。

 ――ただし俺は、心の中で思わず顔をしかめていた。


 俺は歴史に名を刻むなんてまっぴらだ。平凡に生きたいだけなんだ


 そんな俺の願いをよそに、壇上の空気はますます熱を帯びていく。


「では、先輩たちを紹介しよう」


 学園長の合図とともに、二人の上級生が壇上へと歩み出る。

 それだけで場の空気が一変した。


「三年主席、――イグニス・フレイムハート」


 赤髪を揺らしながら現れたのは、燃えるような眼光を持つ長身の男。

 その姿に、会場がどよめいた。


「彼こそ火の本家、フレイムハートの直系。三年にして既に“紅蓮将”の異名を持つ」


 イグニスは無言で壇上に立つ。

 次の瞬間――彼の手から放たれた炎が、訓練用の結界を一瞬で焼き尽くした。

 轟音と爆炎が講堂を揺るがし、新入生の多くが息を呑む。


「……っ、すごすぎる……」

「これが本家の力……」

「勝てるわけがない……」


 そんな中、俺の意識は別のことに囚われていた。


 この魔法も俺はまたコピーしちまうのか?


 俺は思わず息を呑み、反射的に“白い本”を探した。

 だが――


 ……出ない……?


 視界のどこにも、あの真っ白な本は浮かんでこなかった。

 ページも、赤い文字も、なにも。


 やはり条件がある……ただ見るだけじゃダメなのか?

 詠唱から全部見なきゃいけないのか……それとも、距離か……


 分からない。

 ただ一つ分かったのは、この力は無制限にコピーできるものじゃないということ。


 ……その方がいい。もし何でもコピーできるなら、どんな厄介に巻き込まれるかわかったもんじゃない


 爆炎の余韻が消えていく中、会場は静まり返っていた。

 新入生たちはただ圧倒され、言葉を失っている。


 俺もまた、胸の奥に重いものを抱えながら、ふと横を見た。


 ――エリカが兄を睨みつけるように見つめていた。

 その瞳には、誇りでも憧れでもなく、焦燥と悔しさが滲んでいる。


 気づけば、彼女の横顔に見入っていた。

 するとエリカも、こちらを真っ直ぐに見返してきた。


 ただの視線じゃない。鋭く、真実を見抜こうとするような眼差し。


 やはり、気づいているのか? 試験のことを……


 心臓が跳ねる。

 俺は平然を装おうとしたが、目を逸らすこともできなかった。

 互いの視線がぶつかり合い、わずかな時間が永遠のように感じられる。


 そのとき――


 轟音が会場を震わせた。

 雷鳴のような足音を響かせて現れたのは、銀髪の青年だった。


「続いて二年主席、ライゼル・サンダークロウ」


 稲妻と化した彼が結界を一瞬で裂き、雷光が弾ける。

 空気が焦げ、会場はざわめきと畏怖に包まれた。


「は、速すぎる……!」

「もう目で追えなかった……!」


 雷光がすべてをかき消した。

 だが俺の胸には、まだ先ほどの視線の余韻が残っていた。


 ――彼女は確かに俺を睨んでいた。疑念と、怒りと、真実を探ろうとする目で


 これは、避けられないのかもしれないな


 稲妻の残光が消えても、俺の胸にはあの視線の熱が残っていた。


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