第48話【消滅の条件】
――異形の群れが広がり、黒い靄を撒き散らす。
レイジの剛剣でも、マユミの氷でも、サクラの風でも――倒しても倒しても、靄が移り変わり、瞳のない魔物が次々と生まれていく。
戦場に重苦しい沈黙が走った。
「……なら、私が無効化するしかないようね」
紅紫の瞳が妖しく光り、ユリナが前に出る。
「《ダークネス・ゲイズ》」
闇の視線が放たれる。しかし――異形たちは一歩も退かず、虚ろな眼窩で立ち尽くしていた。
「昔と同じ……やはり、通じないみたいね」
ユリナの声は冷ややかだった。だが、わずかに噛みしめた唇がその内心を物語っていた。
小さく吐息を漏らし、紅紫の瞳を細める。
「……やはり、アカネ先輩は無駄なことを言わなかった」
「――なら、私が縛る!」
エリカが杖を掲げた。
「《クリムゾン・チェイン》!」
炎が縒り合い、赤熱の鎖となって走る。
今度は爆ぜなかった。完全に形を保ち、異形の身体を絡め取る。
「……崩れない……!」
エリカの頬を汗が伝う。だがその鎖は軋みながらも確かに異形を封じていた。
サクラは扇を揺らし、優雅に笑みを浮かべる。
「ふふ……これでようやく“本物”と呼べますわね」
マユミも静かに頷いた。
「術式の完成度が桁違い……。彼女は確実に壁を越えた」
その光景を見ながら、ユウマは心の中で呟く。
思い出せ。前にダンジョンで遭遇した時……俺は《フレイム・ランス》と《ウインド・ストーム》を重ねて、あいつを消し去った。なら――まずは同じ条件を、確かめるべきだ
炎を練り上げ、槍を形作る。
「――《フレイム・ランス》!」
灼熱の槍が、炎鎖に縛られた異形を貫いた。
瞬間、魔物の身体は黒い靄を撒き散らすことなく――光の粒子へと砕け散る。
完全な、消滅。
「……ただの炎槍で……?」
レイジの目が細められる。
サクラは扇を口元に当て、涼やかに言葉を紡いだ。
「これは威力の問題ではありませんわね。……何か、“別の理”が働いている」
マユミも静かに分析を重ねる。
「魔力の性質か……あるいは、存在そのものに関わる条件。――少なくとも、試す価値はありそうね」
視線が自然と、ユウマに集まる。
ただ紅紫の瞳だけは、冷たく揺らめいていた。
ユリナは囁くように言った。
「……やはり、アカネ先輩はすべてを見抜いていたのね」
次の瞬間、戦場は再び靄の渦に包まれ、息を呑む気配だけが広がっていた――。




