第47話【異形の連鎖】
――轟音と共に、魔物の群れが地を踏み砕きながら飛び出してきた。
牙を剥く狼、甲殻を纏った蟲、地を揺らす巨躯のオーク。闇の中から数十体が一気に溢れ出す。
「来るぞ」
レイジ・ヴァルハルトが剣を抜き放つ。
まず動いたのはユリナ・ダークネストだった。
紅紫の瞳が妖しく光ると同時に、闇が波紋のように広がる。
「《ダークネス・ゲイズ》」
視線を浴びた魔物たちが一斉に崩れ落ちた。獣であったとしても瞳がある限り恐怖に支配され、爪を震わせ、意識を失い動きを止める。
続けざまに、レイジが一歩で間合いを詰め――。
「斬り伏せる」
剛剣の一閃。
土煙の中、数体のオークが胴ごと両断され、甲殻の蟲も抵抗すらできずに断ち割られた。
闇と剣。闇で意識を失ったところを剣閃で両断する。
二人の力は、まさに圧倒。
背後で控えていた他のSクラスも、淡々とその様子を見つめていた。
サクラ・エーデルリーフは扇を軽く揺らし、優雅に肩をすくめる。
「ふふ……これはもう、わたくしたちの出番はございませんわね」
マユミ・シルバーレインは氷の杖を軽く下ろし、冷静に呟いた。
「闇と剣で十分。今は彼らの舞台でしょう」
エリカも唇を結び、内心の焦燥を隠しながらも頷いた。
「……今は見届けるしかない、か」
その空気を切り裂くように、群れの奥から異様な気配が滲み出す。
のっぺりとした顔。瞳のない虚ろな眼窩。
ただそこに在るだけで、空気がざらつくような異形の魔物。
「闇がざわめいていたのは、コイツがいたからなのね……」
ユリナの紅紫の瞳が細められる。
彼女はちらりとユウマを見やり、低く呟いた。
「アカネ先輩は、この魔物をあなたと私で対処しろと言っていた……何か理由があるのでしょうね」
「理由……?」
ユウマは喉を鳴らす。だが次の瞬間――。
「貴様に頼るまでもない、俺がやる」
重い声と共に、レイジが前に出た。
返事も待たず、瞳のない魔物へ突進する。
「アカネ先輩の言うことが聞けないっていうの?」
ユリナが制止をするがレイジは止まらない。
黒鉄の剣が振り下ろされ、刃は抵抗なく異形を貫いた。
肉体は両断されて地に伏す。
レイジは血を払うと吐き捨てた。
「俺一人で十分だ」
だが――。
地に沈んだはずの異形から、黒い靄が立ち上る。
煙のように広がったそれは、周囲の魔物に次々と取り憑いていった。
狼の瞳が落ち、オークの眼窩が虚ろに変わる。
数瞬のうちに、周囲の魔物たちの瞳がすべて失われ――異形の群れへと変貌していった。
サクラが扇を口元に当て、息を呑む。
「これは……ただの力押しでは済みませんわね」
マユミは氷を練り上げながら静かに告げる。
「厄介ですね……。消したつもりが、むしろ増えている。魔力そのものの質も変質しているように感じます」
そしてエリカが、はっと顔を強張らせた。
「待って……! 前に私とユウマがダンジョンで遭遇したとき、確かに“瞳のない魔物”を倒したの。あの時はこんなこと、起きなかった……!」
ユリナが紅紫の瞳を細め、冷たく囁いた。
「……やはり、アカネ先輩が無駄な指示をするはずがなかった」
圧倒の戦いは、異形の連鎖によって新たな局面を迎えていった。




