第42話【模擬小隊戦】
午後、訓練場に一年生全員が再び集められていた。
ざわめきが渦巻く中、セシリア教官が姿を現すと、一瞬で空気が引き締まる。
「――よく聞け。一年生には新たな課題を課す」
冷徹で、それでいて期待を含んだ声音。
「昨日の対抗戦で確かに力は示された。だが同時に、各々の未熟さも露わになった。
ゆえに――一週間後、追加訓練を行う。内容は“模擬小隊戦”。複数のチームで小隊を組み、より高度な連携を試す」
場内がざわつく。個々の戦闘ではなく、チーム同士の協力――新しい挑戦だ。
セシリアの視線が鋭く走る。
「特に、フレイムハートのチーム。他のチームと比べ連携は取れていた。だが個々の力の伸びしろはまだ大きい。補い合えば光るが、一つ欠ければ脆く崩れる。……その危うさを克服しろ」
ユウマたち四人は無言で頷いた。胸の奥に突き刺さる指摘だった。
そこでセシリアは一拍置き、言葉を続けた。
「加えて伝えておく。来週は――“学園対抗戦”が控えている」
ざわめきが一層大きくなる。学園最強の上級生が、他校の実力者とぶつかり合う一大行事だ。
「対抗戦は三年生と二年生のSクラス生を中心に編成され、会場は他校の領内だ。
したがって、学園長を含む一部教員、そして上級生の実力者はしばらく不在となる」
セシリアの声音は淡々としていたが、その裏に警告めいた響きがあった。
「つまり――学園を守るのは残された者たちだ。だからこそ一年生のお前たちも、小隊戦で“真の連携”を学ばねばならない」
その言葉に、生徒たちの表情は一様に引き締まった。
解散後、中庭に集まったユウマたち。
「模擬小隊戦、か……つまり、俺ら以外のチームとも組むってことだな」
ショウが腕を組む。
「はい。互いの特性を把握して連携を構築しないと、すぐに崩れます」
リナが記録用のノートを広げる。
「……他のチームとの連携、私たちに足りない部分を補うには良い機会かもしれないわ」
エリカが小さく呟く。その表情は真剣で、いつになく素直だった。
「けど、俺たちの強みはまだ固まってない。リナの大技は不完全だし、エリカの鎖も完成途中。ショウの風だってもっと伸びる」
ユウマは周囲を見渡した。
「だから、この一週間で“各自の武器”を強化する。小隊戦はその集大成にするんだ」
三人が静かに頷く。
翌朝から、彼らの特訓は始まった。
訓練場の一角で、再び《クリムゾン・チェイン》に挑む。
炎は爆ぜ、鎖の形を保てず霧散する。
「……まだ、駄目……!」
悔しさに唇を噛む彼女の隣で、ユウマが模倣した鎖を展開し、助言を重ねる。
「力で押すな。縒り合わせるんだ。炎を撚って一本にする意識だ」
「分かってるわ……でも!」
失敗を繰り返す中で、彼女の鎖は少しずつ形を保ち始めていた。
別の水場では、リナが両手を広げ、膨大な水流を呼び出していた。
「《タイダル・ウェイブ》!」
轟音と共に水が盛り上がるが、形を保てず崩れ落ちる。
ユウマが見守るが、模倣の発動はできない。
(完成形じゃない……これじゃ再現できない)
彼女は静かに息を整え、何度も術式を組み直す。
「一度は成功しました。だから必ず……今度こそ完成させます」
風を纏って走り込み、拳を突き出す。
「《ウインド・ランス》!」
鋭い突風が岩を砕くが、彼は首を振る。
「駄目だ……あのサクラさんの風は、こんなもんじゃなかった」
地面に拳を打ちつけ、悔しさを飲み込む。
「でも絶対に届いてみせる……腐っても俺は風の四大一族なんだからな!」
訓練場の片隅で、先日作り出した混合技 《ヴォルカニック・サイクロン》を発動させる。
灼熱の竜巻が周囲を巻き込み、床は一帯が焼け焦げていく。
「やはりこの技は集団戦には不向きだ。味方をも巻き込んでしまう」
開始時に陣形が整っていた模擬戦だからこそ使えた技。
これがダンジョン内や小隊戦では、味方諸共焼き払ってしまう。
「俺もこのままじゃ駄目だ……もっと仲間と噛み合う戦い方を考えないと」
夕刻。
全員が疲れ切った顔で合流した。汗に濡れた制服、荒い息。だが誰も諦めてはいなかった。
「……それぞれ、課題は見えたな」
ユウマが口を開く。
「エリカは鎖を、リナは大技を、ショウは風を。俺は模倣で補う。……一週間で仕上げよう」
三人が頷き、自然と拳が重なった。
――学園対抗戦の裏で、一年生たちの模擬小隊戦が行われる。
上級生も教員も不在の中、学園を守る礎は彼ら自身に委ねられようとしていた。
だが彼らはまだ、その意味を知らない。




