第3話【寮生活の始まり】
チーム発表の後、合格者は寮へ案内される。
俺の部屋は二階のようだ。
男子寮の二階、俺の部屋には既に先客がいた。
明るい顔で手を振ってきた同室の男――
「よう、新入り! 俺はカイト・グリーヴ。よろしくな!」
「……ユウマ・イチノセだ」
寮は一室二名となり、クラスやチームは関係なく同学年の者で割り振られると説明されていた。
ということはこいつも同じ新入生だと思うが………
荷物を置く間もなく、カイトはにこにこと話しかけてくる。
「なぁ、どのチームになったんだ? 俺はCクラスで、チームは外れくじ引いちまったけどさ」
「……エリカ・フレイムハート、リナ・アクアリス、ショウ・ストームウィングのチームだ」
その瞬間、カイトが盛大に咳き込んだ。
「げほっ!? お、お前正気か!? ……四大一族だぞ、お前以外!」
「……四大一族?」
俺が首をかしげると、カイトは目を丸くして近寄ってきた。
「おいおい……本当に知らねぇのか? 王都じゃ常識だぞ。
いいか、フレイムハート家は炎の名門。火力じゃ右に出る者はいねぇ。
アクアリス家は水の一族。治癒も結界も得意で、王国の医療を支えてる。
ストームウィング家は風の名門。空戦や機動戦なら天下一品だ。
残る一つはサンダークロウ家。雷で瞬発力と破壊力を誇る。
この四家をまとめて“四大一族”って呼ぶんだよ」
「……そんなすごいやつらと、一緒のチームに?」
カイトは肩をすくめ、大げさに両手を広げた。
「そういうこった。俺たち凡人は普通なら一生に一度戦場を共にできるかどうかって連中だぞ? お前、伝説級のチームに放り込まれてんだよ!」
俺は頭を抱えた。
……平凡でいたいのに、なんでこんなことに……
カイトはベッドに寝転び、興味深そうにこちらを見やった。
「にしてもさ、ユウマ。なんで学園に入ろうと思ったんだ? お前、戦いに向いてるタイプには見えねぇけど」
一瞬迷ったが、嘘をつく理由もない。
「……給金が出るだろ。入学した者には、毎月金貨が支給されるって聞いた」
「ああ、あれな!」カイトは笑った。
「貴族の連中にとっちゃ小遣いみたいな額だけど、庶民にすりゃ大金だ。……なるほど、仕送りする気か?」
「……ああ。村のみんなに、少しでも楽をさせたいんだ」
そう口にした瞬間、カイトはしばらく俺を見つめ、それからニヤリと笑った。
「へぇ……お前、案外いい奴じゃん。田舎出なら王都のことは俺が色々教えてやるよ!」
「……今日はもう疲れた、また今度にしてくれ」
俺の願いとは裏腹に、状況はますます平凡から遠ざかっていくようだった。
==エリカSIDE==
女子寮の最上階、五階。
重厚な扉を開けた瞬間、エリカは思わず立ち尽くした。
「……なに、これ……」
そこは小さな貴族屋敷をそのまま切り取ったような豪奢な部屋だった。
広いベッド、壁一面の書棚、煌びやかな魔導ランプ、練習用の小結界まで備え付けられている。
(……これが、Sクラスの待遇……)
本来なら誇りと喜びに胸を張るべき空間。
だがエリカの胸に広がるのは、居心地の悪さだった。
(違う……私は、本当にこんな部屋にふさわしいの?)
思い出すのは試験の光景。
小さな炎しか生み出せなかった自分。
そして――隣の田舎者が放った、あの巨大な火球。
(……あれは、絶対に……)
拳を握りしめ、唇を噛む。
真実を問いただしたい気持ちが渦巻く一方で、否定すれば「落ちこぼれ」に逆戻り。
沈黙すれば「偽りの天才」として持ち上げられる。
どちらを選んでも、逃げ場はなかった。
「……負けない。絶対に、本当の力を手に入れてやる」
そう呟きながら、エリカは部屋の奥へと足を踏み入れた。
豪華すぎる個室は、彼女にとって牢獄のように冷たく見えていた。
====
夜。
男子寮の部屋、相部屋のカイトはもう寝息を立てていた。
ベッドの上で、俺は眠れずに天井を見つめる。
……結局、あの本はなんなんだ?
試験のとき、俺の目の前に現れた真っ白な本。
ページが勝手に開き、赤い文字が刻まれた。
《炎弾:模倣完了》
模倣。つまり、俺は人の魔法をコピーできるってことか?
思い返せば、発動したのはエリカが魔法を撃った直後。
もし条件が「他人の魔法を見ること」なら……それだけで俺は無限に強くなれる。
……いや、考えたくもない。そんな危険な力、俺には似合わない
……けど、なんでエリカだけ? 隣の奴らも魔法を撃ってたはずなのに…
思い返す。
氷、風、雷――どれも確かに見えた。
だが、本を開かせたのはエリカの炎だけだった。
なにか条件があるのか? ただ見るだけじゃなく、ちゃんと“理解しようとした”からか……
それとも、隣にいたから……魔力の波を一番近くで感じ取れたからか?
分からない。
けれど確かに、すべての魔法を無条件でコピーできるわけじゃない。
むしろその方がいい。無制限に真似できるよりは……まだ、平凡でいられる
そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥に残る熱は消えなかった。
もしまた発動したら……俺は、平凡でいられるのか?
答えの出ない問いを抱えたまま、俺はゆっくりと目を閉じた。
外からは、王都の夜を照らす灯火がちらついていた。
書き溜めたストックがもうそろそろ尽きそうです。




