第38話【風の王】
風の騎士団同士が激突し、観客席は歓声に揺れていた。
その中心で、サクラ・エーデルリーフはなおも涼やかな笑みを浮かべている。
「……まさか、私の《テンペスト・ワルツ》を再現するなんて。けれど――」
彼女は優雅に扇を下ろし、ユウマへと一歩踏み出した。
薄緑色の瞳が、真っ直ぐに彼を射抜く。
「あなたは、私の騎士より私自身が弱いとでも思っているのかしら?」
その瞬間、ユウマのすぐそばで空気が震えた。
圧倒的な魔力の奔流が渦を巻き、彼の肌を切り裂くような風圧が走る。
――強大な何かを呼び出そうとしている。
「《グランド――」
口にしかけたところで、サクラの思考が一気に加速した。
(彼……私の魔法を再現した。ならば何故、今まで《テンペスト・ワルツ》を再現してこなかった?)
(再現に“条件”がある……? そう、今この距離――至近で発動を視認する必要があるのね)
サクラの唇にかすかな笑みが戻る。
(なるほど……だからこそ、わざわざ接近してきた。私が《テンペスト・ワルツ》を放つ瞬間を狙って)
(ならば――この距離で《グランドシルフ》を放てば、そのまま再現されてしまう危険性がありますわね)
サクラの薄緑色の瞳が細められ、扇を止める。
練り上げた膨大な魔力を霧散させ、軽やかに数歩後退する。
「……危うく愚かな一手を打つところでしたわ」
観客にはただ「大技を控えた」ようにしか見えなかった。
だが、彼女の眼差しはユウマを鋭く射抜き続けていた。
「――面白いですわね。あなたの“秘密”は、少しずつ見えてきました」
そして、静かに吐息を漏らす。
「模擬戦でユリナさんの視線に抗えた理由……ようやく理解できた気がしますわ」
模倣の条件を悟ったサクラと、知られたことに気づくユウマ。
彼女は距離を保ち、扇を翻すと同時に、舞台全体に風の渦を広範囲に展開し始めた。
次の瞬間――
舞台を覆うように数十本もの風刃が出現し、空気そのものが剣と化す。
「っ……広域殲滅……!」
リナが思わず顔をしかめる。
「正面突破なんて無理だぞ……!」
ショウも額に汗を浮かべた。
ユウマは歯を食いしばる。
至近で発動を視られない以上、もう模倣はできない……。でも、ここで引くわけにはいかない!
エリカが杖を構え直し、赤い炎をまとった。
「なら……押し返すしかない!」
サクラの扇が優雅に振るわれる。
「さあ――あなた方に避け場はございませんわ」
無数の風刃が一斉に襲い掛かる。
舞台全体を薙ぎ払う嵐の中、四人は再び陣を組んだ。
――決戦は、ここからが本番。
サクラさんもさすがSクラス、わずかな情報だけで神鏡の眼の秘密にたどり着きます。
ユリナさんも冷静であればこれくらい見抜けるはず…




