第37話【騎士団激突】
舞台を覆う炎の鎖。その中心で、リナは震える両腕を掲げていた。
「……今度こそ、成功させます!」
彼女の声に呼応するように、舞台に水が溢れ出す。
奔流は重なり、波の形を取り、やがて天を仰ぐような巨大な水壁へと変わった。
「《タイダル・ウェイブ》!」
轟音と共に、大海の奔流が風の騎士団を一気に呑み込む。
幻影たちは次々に霧散し、舞台そのものを揺るがすような大波が観客席すれすれまで迫った。
「す、すごい……!」
「水が……舞台を飲み込んだ……!」
観客席がどよめきに包まれる。
やがて波は砕け、舞台を濡らした水飛沫の中に――リナはまだ立っていた。
「……や、やりました……!」
全ての風の騎士を消し去ったのだ。
だがリナはすぐに膝をつき、杖を支えに必死に息を整える。
「……でも……これは安定した成功ではありません。次にやれと言われても……保証はできません」
それは“奇跡の一度”に過ぎなかった。
その間にユウマは走っていた。
リナの波は成功した。なら俺は――サクラを止める!
風が裂ける中、サクラの正面に肉薄する。
彼女は微笑んだまま、扇を掲げる。
「まあ……やはり、また舞わなくてはなりませんわね。
――《テンペスト・ワルツ》」
風が渦を巻き、再び騎士の姿を象り始める。
その瞬間、ユウマの眼が光を帯びた。
「《神鏡の眼》――!」
竜巻の渦、その構築、その形――全てを解析し、理解し、映し出す。
「……模倣する!」
ユウマの周囲にも、同じく風の騎士が立ち上がった。
「お、おい! 今のって……ショウが発動させたのか!?」
「やっぱり腐っても風の四大一族か……!」
「いくら同じ風属性って言ったって、土壇場でここまでやれるのか!」
観客の声が一斉に沸き起こる。
ショウ自身も目を丸くし、慌てて拳を握った。
「お、俺が……!? ま、まあ俺の風が役に立ったのかもな!」
エリカとリナは驚きつつも、必死に頷いた。
(今は……そう思わせておくのが一番いい)
観客席は「Cクラスのチーム連携すげえ!」「ショウもやっぱり一族の力だ!」という熱狂に包まれていった。
ただ一人、サクラだけは涼やかな笑みを崩さなかった。
「……そんなわけがありませんわね」
扇状の杖で口元を隠しながら、その薄緑色の瞳がユウマを射抜く。
彼女だけが理解していた。あれはショウのものではない。
――自分の《テンペスト・ワルツ》を、再現していると。
サクラの風の騎士たちと、ユウマの模倣した騎士団がぶつかり合った。
剣戟のような風が舞台を切り裂き、剣の突風が激突して渦を生む。
轟音が響き渡り、観客は誰もが息を呑む。
そして――押したのは、ユウマの騎士団だった。
「……嘘、ですわね……?」
サクラの薄緑の瞳が初めて揺らぐ。
自らが磨き上げた優雅なる舞踏。それが“模倣”に押し返されている現実に。
舞台に二つの騎士団が存在し、風の舞踏がぶつかり合う。
観客は歓声を上げ、サクラは驚愕に染まり、ユウマは歯を食いしばる。
――戦いは、ついに均衡を破り始めた。




