第36話【波を起こす者】
風の騎士団が再び舞台を囲み、観客席がざわめく。
「まだ……出すのか……」
「何度でも《テンペスト・ワルツ》を……」
サクラは優雅に扇を揺らし、舞姫のように微笑んでいた。
「さあ、次はどなたが先に散ってくださるのかしら」
ユウマは仲間を振り返る。
だが先に口を開いたのはリナだった。
「ユウマさん、作戦があります」
その瞳は冷たい湖面のように澄み切り、揺らぎがなかった。
「サクラさんはきっと――風の騎士を倒すたび、また《テンペスト・ワルツ》を発動してきます」
「……ああ、そうだろうな」ユウマが頷く。
「なら、私たちがすべきは――一度の機会で全ての騎士を討ち取ること」
リナは杖を握りしめた。
「私の《タイダル・ウェイブ》なら可能です。……不完全でも、全てを呑み込めます」
ユウマが眉をひそめる。
「でも完成してないんだろ? 外せば……」
「だから――エリカさんとユウマさんに足止めをお願いします」
リナの声ははっきりと響いた。
「《クリムゾン・チェイン》で騎士たちを拘束してください。ユウマさんも模倣して、一緒に押さえ込んで」
そして、リナがユウマを真っ直ぐに見据える。
「私が必ず大技を成功させて騎士を全て倒します。その瞬間、あなたはサクラさんに接近してください」
「……サクラの《テンペスト・ワルツ》を、模倣するためにか」
「はい」
リナが頷く。
「次の発動を許したら終わりです。なら、模倣で封じるしかありません」
ユウマは拳を握りしめた。
仲間を信じろ……リナが波を完成させると言うなら、俺はそれを通す!
「分かった。俺とエリカで足止めする。その間に……絶対に決めろよ」
リナは静かに微笑んだ。
「もちろんです。……この戦いを終わらせましょう」
サクラが優雅に片手を掲げると、風の騎士たちが一斉に剣を構える。
再び死の舞踏が始まった。
「ユウマ!」
「おう!」
エリカとユウマが同時に杖を振り下ろす。
二条の紅炎が鎖となり、風の騎士団を絡め取るように走った。
「《クリムゾン・チェイン》!」
模倣と本家の炎鎖が交差し、炎の網となって騎士たちを拘束する。
暴風がうなりを上げて鎖を引き裂こうとするが、二人の力が合わさり耐え抜いていた。
「今です……!」リナが両手を掲げる。
水が舞台に溢れ、巨大な波の胎動が生まれる。
「《タイダル・ウェイブ》!」
その瞬間、ユウマは走り出した。
拘束が解ける前に――サクラに肉薄するために。
炎の鎖が軋み、波がうねり、風が悲鳴を上げる。
サクラはただ微笑みながら、舞台中央でその全てを見届けていた。
――決戦の一手が、今まさに放たれようとしていた。




