第35話【風のワルツ】
会場の熱気はまだ収まっていなかった。
マユミが氷で戦場を支配し、ユリナが一瞬で全員を沈めた。
二つの異常な勝利が立て続けに刻まれ、観客たちの視線は自然と残された最後のカードへと向けられる。
――第三試合、エリカ・フレイムハートのチーム 対 サクラ・エーデルリーフのチーム。
試合前、控室の一角。
ユウマたち四人は肩を寄せ合い、静かに呼吸を整えていた。
「二試合とも……すごい内容だったな」
ショウが頭をかく。
「気圧されてはいけません。これは“実力を測る場”。恐れる必要はありません」
リナが淡々と返す。
「でも、相手はサクラよ」
エリカが唇を噛む。
「風は速く鋭い。接近する前に切り裂かれる危険がある。簡単にはいかないわ」
ユウマは彼女を横目で見ながら頷いた。
「それを見越して作戦を立てただろ。開始と同時に、まずは俺たちで主導権を取る」
炎、水、風――三属性を重ねた切り札 《ヴォルカニック・サイクロン》。
そしてエリカの完成しつつある《クリムゾン・チェイン》。
さらにリナの未完成の大技 《タイダル・ウェイブ》。
チームとして積み重ねてきたものを出し切る時だった。
特設舞台に足を踏み入れると、観客席から歓声が降り注いだ。
「最後の試合だ!」
「炎と風、どっちが強いか!」
「黒髪のCクラスもまた見られるぞ!」
ざわめきは熱狂へと変わりつつあった。
向かい合うサクラ・エーデルリーフは、淡い金緑色の髪を揺らし、涼やかに微笑んだ。
「やっと私たちの番ですのね。――あなたたちが相手かしら?」
その声は優雅で軽やかに響き、まるで舞踏会の誘いのようだった。
エリカは一歩前に出て杖を構える。
「フレイムハートの名にかけて……仮初なんて言わせない。必ず勝つ」
仲間たちがそれぞれ頷く。
ユウマは拳を握り、胸の奥で呟いた。
俺は平凡でいたい。でも、もう逃げられない。ここで勝って、皆の力を証明する
「――第三試合、開始!」
セシリアの声が響いた瞬間、ユウマたちは一斉に動いた。
「行くぞ!」
「合わせます!」
「任せとけ!」
炎が爆ぜ、水が蒸発し、風が渦を巻く。
三人の魔力が一点に収束したように見せ、ユウマより轟音を伴って放たれた。
「《ヴォルカニック・サイクロン》!」
灼熱の蒸気と炎を絡めた竜巻が舞台を覆い尽くし、轟々と唸りを上げてサクラのチームへと襲いかかった。
観客席からは歓声と悲鳴が入り混じる。
凄まじい爆発音と共に、舞台は濃い煙に閉ざされた。
「やったか……!?」
ショウが拳を握る。
だが次の瞬間、風が優雅に吹き抜け、煙が払われる。
そこに立っていたのは――サクラ・エーデルリーフ。
淡い金緑の髪をなびかせ、彼女は微笑んでいた。
床は周囲一帯が焼け焦げ、舞台は無惨に爛れている。
しかしサクラの足元だけは、風が円を描いたように無傷のままだった。
その背後では、彼女の仲間たちが倒れていた。
致命傷ではないが、熱の余波で喉を焼かれ、苦しげに呻いている。
「まあ……私にはそよ風にしか感じませんでしたけれど。
あなた方には、少し暑かったみたいですね」
サクラは杖を軽く振り、風で仲間たちの体を会場外へと優雅に運び出す。
「ここから先は私が片付けますので、あなた方は休んでいてくださいませ」
まるで舞踏会でのエスコートのように、優雅に仲間を退場させるその仕草。
会場全体が息を呑む中、舞台に残ったのは――サクラ一人。
彼女は杖を胸に掲げ、微笑みながら告げた。
「……けれど、私一人で戦うのは、少しばかり優雅さに欠けますわね。
舞台にはやはり――私を守るナイトが必要でしょう?」
その言葉と同時に、サクラの周囲で風が渦を巻き始める。
旋風は次第に形を取り、やがて鎧を纏った「騎士」の姿を象りながら舞い上がった。
「《テンペスト・ワルツ》」
数体の風の騎士たちが、サクラを中心に円を描いて舞い始める。
観客には美しい群舞のように見える。だが、その一歩一歩が石畳を削り、鋭い風刃を撒き散らしていた。
「くっ……!」
ユウマは迫る風刃を辛うじて回避する。
至近距離で魔法と相対するが、発動後であるため模倣はできない。
エリカの《ファイア・ランス》が一体を貫いたが、炎は裂ける風に呑まれて霧散した。
「効かない……!?」
リナは咄嗟に《アクア・バリア》を展開し、剣を構えた風の騎士を受け止める。
だが圧力は予想以上で、腕が痺れる。
「……これは、ただの突風ではありません」
ショウは拳を振り抜き、自らの風魔法で竜巻を打ち砕こうとした。
しかし結果は――惨敗。
彼の風は簡単に押し返され、逆に身体を切り裂くような衝撃が襲いかかった。
「お、同じ風魔法なのに……なんで……ここまで差があるんだ……!?」
地に膝をついたショウの顔には、悔しさと混乱が入り混じっていた。
舞台中央でサクラは変わらぬ微笑を浮かべていた。
「さあ――もっと踊りましょう。
この《テンペスト・ワルツ》に合わせて、最後には優雅に散ってくださるかしら?」
風の騎士たちが一斉に剣を構え、ユウマたちを取り囲む。
その姿は舞踏会の円舞曲のように美しく――同時に逃げ場のない死の舞だった。
いつものように相手は1名になります。
私の力量不足もありますが、同人数で戦ってはユウマ達ではSクラス相手に勝負になりません。




