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第29話【鏡合わせ】

 翌日、訓練場の一角。

 朝の光が差し込み、石畳に影を落としていた。三人は既に準備を整え、昨日の続きを始めていた。



「……いくわよ」

 エリカが杖を掲げる。炎が凝縮し、赤熱の奔流が鎖の形を取りかけ――次の瞬間、爆ぜて散った。


「くっ……また、だめ……!」

 悔しさを隠さず歯を噛み締める。


「炎を“縒る”意識だ。力を押し込むんじゃなくて、撚り合わせて一本にするんだ」

 ユウマが助言し、自ら模倣した鎖を展開する。炎は美しく繋がり、対象を絡め取った。


「分かってる……けど、私がやると崩れるのよ!」

 エリカは声を荒げるが、その目は真剣だった。


「ユウマさんのは模倣は発動時から“安定”しすぎています。

 模倣は完成形のみを再現している、つまり私たちが一から組み立てている魔法とは、本質的に異なるのです」

 リナが冷静に口を挟む。

「もっと“熱”を。あなたの炎はフレイムハートの誇り。その熱を鎖に重ねてみては」


 エリカは深く息を吸い、再び杖を構えようとしたーーその時。


 リナがふと顔を上げる。

「……その前に、一つ確かめたいことがあります」


 そう言って、リナは手をかざす。透明な水の壁がユウマたちの前に広がった。

「《アクア・バリア》、ユウマさん、私と同じ魔力量で再現してもらえますか」


「ふむ、俺も真似すればいいんだな?」

 ユウマも同じ動作をとり、バリアを展開する。水の壁はリナものよりも一回りも大きく、密度も高く現れた。


「……これまでの検証でも判明していましたが、ユウマさんの模倣は魔力効率が非常に良く、オリジナルより高出力で再現されます」

 リナが解説する。エリカに向けられた言葉でもあった。


 さらに二度、三度と繰り返す。

 ユウマのバリアは展開のたびに密度を増し、透き通った壁は次第に堅牢さを増していった。


 リナは眉をひそめ、ペンを走らせながら言う。

「やはり……三つの特性が見えてきました」


 彼女は指を折りながら続けた。


「一つ目――ユウマさんの模倣は、同じ魔力量でも常に高効率で発動します」

「二つ目――繰り返すほど術式が洗練され、性能が向上していく」

「そして三つ目――その“効率化”は模倣した側だけでなく、模倣されたオリジナルにも波及する」


 その言葉と共ににリナがアクア・バリアを発動する。。

 確かにリナが発動した水壁も先ほどまでよりもきめ細やかさを増し、より堅牢に見えた。


「つまり模倣された側にも“向上の恩恵”が及ぶのです」


 エリカの目が大きく見開かれた。


「……じゃあ、私の《クリムゾン・チェイン》も……?」


「はい。ユウマさんが使えば使うほど、エリカさんの魔法も磨かれていくはずです」


 リナは断言する。


 エリカは拳を握りしめ、胸に熱を覚えた。


 仮初と嘲られた自分の力が、ユウマを通じて“本物”に近づいていく――その可能性が確かに芽生えたのだ。



 リナの検証を聞き、エリカが再び杖を掲げる。

 今度は力で押さえ込もうとせず、熱を重ね合わせるイメージを抱いた。


 ――ごう、と炎が揺らぎ、ぎりぎりと揺れながらも、鎖の姿を結ぶ。

 一瞬だけ、確かに繋がっていた。


「……今の、成功よね!」

 エリカが目を見開く。


 リナが頷く。

「完全ではありませんが、昨日とは段違いです、確実に成長しています」


 ユウマはにやりと笑った。

「やっと本家が模倣に追いついてきたか」


「うるさいわね……! 最初から追い越すつもりよ!」

 赤くなりながら睨み返すエリカ。だがその瞳には、確かな光が宿っていた。



 三人は休憩を挟みながらも、繰り返し挑戦を続けた。

 失敗は続く。爆ぜ、散り、消える炎。

 だがその中で、確かに「成功への形」と「成長の兆し」が見え始めていた。


 ――仮初から、本物へ。

 そして模倣から、さらなる進化へ。

 それぞれの力が交わり、信頼の絆が少しずつ強まっていった。



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