第2話【疑惑とクラス分け】
巨大な火球が消え、訓練場に静寂が戻った。
俺は胸の鼓動を必死に抑えながら、自分の掌を見下ろす。
……なんだ、今のは。本当に……俺が?
視界の端に、真っ白な本が浮かんでいる。
表紙は光に包まれ、勝手にページが開いて赤い文字が刻まれていく。
《炎弾:模倣完了》
これが……《神鏡の眼》の能力……!
だが周囲を見渡しても、誰一人としてその本に気づいてはいない。
エリカも、試験官も、観客も――誰もだ。
俺にしか……見えてないのか
得体の知れない力に背筋が冷たくなる。
恐怖と興奮が入り混じりながら、俺はただ拳を握りしめた。
==エリカSIDE==
観客席がざわめいた。
「フレイムハートの娘が覚醒したぞ!」
「さすが名門だ!」
歓声が飛び交う中、エリカは呆然と立ち尽くしていた。
小さな炎しか出せなかった自分が、突然“天才”扱いされている。
(違う……あれは、私じゃない。
でも……誰も……疑ってない……)
強気で通してきた彼女の心に、言いようのない不安が広がる。
誤解を否定すれば「落ちこぼれ」と再び嘲笑される。
肯定すれば「偽りの天才」として期待を背負わされる。
――その狭間で、彼女は声を失っていた。
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試験が終わり、列に戻ったとき。
隣に立つ俺へ、エリカが小声で囁いた。
「……あんた、今……何をしたの?」
俺は視線を逸らし、努めて平然と答える。
「さぁな。ただ、俺の魔法なんて弱すぎて、君の炎に飲み込まれただけだよ」
「……っ」
彼女は言葉を飲み込んだ。
瞳には疑念の色が浮かんでいたが、それ以上は何も言わなかった。
頼む……深入りするな。俺は目立たず平凡でいたいんだ……
俺は胸中でそう呟きながら、ただ静かに深呼吸した。
しかし、この小さな会話が――後に彼女との関係を大きく揺るがすきっかけになることを、まだ知らなかった。
試験終了後、大講堂に受験生が集められた。
壇上に立つ教員が名簿を手に取り、朗々と声を響かせる。
「――入学試験の結果を発表する」
会場の緊張が一気に高まった。
「本年の合格者は28名。規定に則り成績上位者よりSからCクラスへ振り分けを行う」
「まず、Sクラス」
「レイジ・ヴァルハルト」
「マユミ・シルバーレイン」
「カズマ・フェルドランス」
「サクラ・エーデルリーフ」
「ハルト・オルディア」
「ユリナ・ダークネスト」
次々と名が読み上げられる。
「エリカ・フレイムハート」
講堂がざわめきで満ちる。
「落ちこぼれが?」「いや、あの大火球を見ただろう!」
本人は困惑しつつも、立ち上がらざるを得なかった。
学園最強の7人――その一角に、エリカは戸惑いながらも加わることになった。
その後もAクラス7名、Bクラス7名が次々と読み上げられたが、当然ながら俺の名前は呼ばれていない。
最後にCクラス。
名前が呼ばれていく中、徐々に不安な気持ちになってきていたところ、
「最後に、ユウマ・イチノセ」
一瞬の静寂の後、「誰だ?」「田舎者か?」と小声が飛び交い、すぐに興味を失われた。
……ふぅ、これでとりあえずは一安心……
胸をなで下ろしたのも束の間、教員の言葉が続く。
「学園ではクラス間の能力の偏りを防ぐため、各クラスから一名ずつ選抜し、混合チームを結成する。以後の実習や試験はチーム単位で行う」
一斉にざわめきが広がる。
「Sクラスと組めるのか!?」
「これは……チャンスだ!」
教員が組み合わせを読み上げる中、俺の名前が呼ばれた。
「――Sクラス、エリカ・フレイムハート。
Aクラス、リナ・アクアリス。
Bクラス、ショウ・ストームウィング。
Cクラス……ユウマ・イチノセ」
……は?
俺の頭の中は真っ白になった。
平凡でいたいだけなのに、よりによって疑いの目を向けられているエリカのチームに――。
こうして俺の波乱だらけの学園生活が始まった。




