第28話【炎の鎖】
木陰の下。夕暮れの光に照らされ、芝生が赤く染まっていた。
ユウマとリナの対面で、エリカの決意に呼応するように、周囲の空気まで熱を帯びているように思えた。
「……私の未完成魔法。《クリムゾン・チェイン》を、完成させたいの」
その声に迷いはない。けれど瞳の奥には、焦燥と決意が混じっていた。
「未完成って……あの時、俺が使った鎖の魔法だろ?」
ユウマが率直に問う。
エリカは唇を噛み、頷く。
「……あれは本来なら私の魔法。でも、私はまだ制御できていない。鎖を形にしようとするたび、炎が弾けてしまうの」
一瞬、視線を伏せる。
そして意を決したように、リナへと顔を向けた。
「リナ。……私の力は、“仮初のSクラス”と呼ばれても仕方がないものなの」
その告白は、プライドの高い彼女にとって何よりも辛いものだった。
リナは僅かに目を見開き、それから淡々とした口調で返す。
「ユウマさんですよね。元を辿ればエリカさんの力には違いないのでは」
氷のように冷静。それでも、水のように包み込む不思議な温かさが滲んでいた。
エリカは短く息をつき、胸の奥の氷が少しだけ解けるのを感じた。
「ねえ、ユウマ」
エリカが視線を移す。
「あなたは、どうして私の魔法を……あそこまで完成させられたの?」
ユウマは一瞬言葉を詰まらせ、そして口を開く。
「俺の力は――《神鏡の眼》。見た魔法を、模倣できる」
「模倣……?」
エリカの瞳が揺れる。
「そう。視て、理解して、再現する。ただの真似事だ。できるのは模倣だけで、新しい魔法を創ることはできない。ただ借り物を組み合わせるだけ」
リナが横で静かに頷く。
「私は前回のダンジョンでユウマさんの力に気づきました。それ以降検証に付き合っています」
エリカは沈黙した。
だが次の瞬間、小さく笑みを浮かべる。
「なるほどね。なら、私とあなたは似た者同士かもしれないわ。私は“仮初のS”、あなたは“模倣の使い手”」
「揃いも揃って偽物ってわけか」
ユウマが苦笑すると、リナは呆れたように肩をすくめる。
「何を言っているのですが、二人とも…」
エリカは杖を構える。
胸の奥の重荷が、ほんの少し軽くなった気がする。
「……それじゃあ始めましょう。《クリムゾン・チェイン》を、私の力として完成させるために」
「お、おい。今からここでやるつもりか? 飯にして、明日からでいいだろ」
ユウマの抗議など聞く耳を持たず、炎が杖の先に灯る。未完成の鎖が揺らめき、形を保てず弾け飛ぶ。
その横でユウマが苦笑し、リナは黙って片付けを始めていた。
三人の視線が交錯したとき、そこにはもう「共犯」だけではない、確かな信頼の芽が育ちつつあった。
――だが、リナは胸の奥で小さく息を吐く。
(……ショウさんだけが、何も知らないままなのですね。後で伝えるべきかしら)




