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第27話【エリカの決意】

 Sクラス専用ラウンジ――寮の最上階。


 煌びやかなシャンデリアに深紅の絨毯、王都を見下ろす大窓。実力者の象徴とも呼べる空間は、エリカにとって何より居心地の悪い場所だった。




(……ここは私の場所じゃない)




 そう思うがゆえに、彼女は普段この階を避けていた。自室へ戻る以外、このラウンジに寄りつくことはない。


 今日もそうだった。自主訓練を終え、ただ自室へ向かおうとしていただけ――。




「まあ……通りかかっただけで済むと思いまして?」




 氷のような声音が背にかかる。


 振り返れば、ラウンジの扉の内側に佇むマユミ・シルバーレインが、冷ややかな微笑を浮かべていた。




「せっかく“S”の仲間なのですもの。顔くらい見せてくださらないと。……それとも、自信がないのかしら?」




 言葉自体は穏やか。だがそこに含まれる棘は、氷の刃のように容赦なく鋭かった。




「剣を交えれば一発で分かることだ」


 レイジ・ヴァルハルトが椅子から腰を上げ、真っ直ぐにエリカを見据える。公平を装いながらも、その視線には試すような色があった。




「ははっ、だったら次は俺が相手だな! Sの名にふさわしいかどうか、雷で炙り出してやる!」


 カズマ・フェルドランスが豪快に笑い、拳を鳴らす。




 サクラ・エーデルリーフは優雅に扇を揺らし、楽しげに首を傾げた。


「でも噂では……黒髪のCクラスに助けられたそうですわね? それで“S”と呼ばれるのは……少々、皮肉が過ぎませんこと?」




 四方から浴びせられる言葉の刃。


 その中心で、エリカは足を止めたまま微動だにしない。表情を変えず、堂々と視線を受け止めていた。




 だが――。




 紅紫の瞳が、ゆっくりとエリカを射抜く。




 ユリナ・ダークネスト。


 彼女は一言も発さない。ラウンジ奥の窓辺に優雅に腰かけ、口角を吊り上げていた。


 そこに言葉はない。あるのは、ただ徹底的に見下す嘲笑だけ。




 ――“仮初のSクラス”。




 声にしなくとも、そう言っているのが痛いほど伝わる。


 氷よりも、雷よりも、風よりも鋭く。ユリナの沈黙は、エリカにとって何よりも苛烈な断罪だった。




 エリカは表情を崩さない。だが、握りしめた拳の爪が掌に食い込み、じわりと痛みが広がる。


 その痛みで、自分を奮い立たせるしかなかった。




(見ていなさい。私は……私の力で、この場にいると証明する)




 エリカは静かに息を吐き、ラウンジを後にした。


 背後に残る嘲笑と冷笑を、振り返ることなく。






 自室へ戻りずらく中庭へ出ると、夕暮れの光が芝生を染めていた。


 木陰の下ではユウマとリナが向かい合い、何やら真剣に言葉を交わしている。リナはノートを広げ、ユウマは拳を握りしめていた。




「……次にあの視線を受けても、今度は絶対に飲まれない」


 ユウマの声が微かに聞こえる。




 エリカは足を止め、しばし二人を見つめた。


 模倣でさえ完成させた《クリムゾン・チェイン》――。


 だが自分は、まだ形にすらできていない。




 胸の奥に、再びラウンジで受けた冷笑が蘇る。


 その痛みを振り払うように、エリカは一歩踏み出した。




「……ユウマ。リナ。少し、いいかしら」




 二人が振り返る。驚きと、わずかな緊張。


 エリカは真剣な表情で二人を見据え、言葉を続けた。




「私の特訓に、付き合ってほしいの」




 プライドの高い彼女が、自ら頭を下げて頼み込む。


 その姿に、ユウマは目を瞬かせ、返す言葉を探した。

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