第25話【刻まれた名前】
模擬戦の翌日。
食堂や図書室、渡り廊下――学園中が一つの話題で持ち切りだった。
「昨日の代理戦、見たか?」
「ユウマ・イチノセ……あいつCクラスだろ?」
「でもあのSクラスのユリナ・ダークネストと互角に渡り合ったんだぞ」
「あれはフレイムハートの力らしいぞ」
事実を目撃した者と、誇張だと笑う者。
温度差が混ざり合い、噂は膨らみ続けていった。
同じ頃、寮の5階――Sクラスだけが集える専用ラウンジ。
豪奢なソファに腰掛けた面々は、いずれも学園屈指の実力者たち。
「まさか、あのユリナが……あそこまで引き出されるとはな」
雷撃のカズマが愉快そうに笑う。
「イチノセ・ユウマ……得体の知れない存在」
氷のマユミが瞳を細め、冷ややかに名を口にする。
「次に剣を交えるのは、俺だ」
短く言い切るのはレイジ。静かな剣気が漂った。
「ふふ、華やかでいいじゃない」
サクラは紅茶を啜りながら微笑む。その瞳の奥には冷徹な観察者の光。
「……光でさえ届かない闇。その隣に、もう一つの異質がいる」
ハルトが低く呟き、場が静まった。
――だが、そこに二人の姿はなかった。
エリカは居心地の悪さから自室に籠り、ユリナはいつものように他者との馴れ合いに興味を示さず、姿を見せなかった。
その日一日は誇張されたものも含めユウマの話題にて持ち切りであった。
月下、寮の屋上。
吹き抜ける風を受けながら、ユリナは闇を纏うように佇んでいた。
「……くだらない」
噂に浮き立つ生徒たちを思い浮かべ、吐き捨てる。
自分にとってはどうでもいい。ただ――
脳裏に焼き付くのは、ユウマ・イチノセの瞳。
「……あれは、何?」
一日経った今でも理解が及ばない。
紅紫の瞳と、彼の黒い光が交錯した瞬間。
自分の“視線”を弾き返した、あり得ない出来事。
あれは炎ではない。
魔力の波長、魂の響き……何か異質なものが、彼の瞳に潜んでいる。
唇に浮かぶのは冷笑。
「ユウマ・イチノセ……おもしろくなりそうじゃない」
風が吹き抜け、漆黒の髪を揺らす。
その瞳には、怒りでも恐怖でもなく、強烈な執着が宿っていた。
教員室にて、独り夜遅くまで作業をしていたセシリア教官は深い溜息をつく。
「……ダークネストとイチノセ。いずれにせよ、学園は波乱の時代を迎える」
教師としての責務と、一人の戦士としての期待。
「イチノセの入学試験の件、瞳のない魔物、今回のダークネストへの対抗、
そろそろ学園長に色々と問いただす必要がありそうだな」
今後のことで頭が重くなり、彼女は作業で疲れた目を閉じた。
こうしてユウマの名は、想定外の形で学園に刻まれた。
炎でも、闇でもない。
実力は正しく暴かれていないが、決して平凡などではない、ただ「異質」として――。
物語は、次の章へと歩み出す。
今回で1章は終了です。
群像劇のようにしてみたかったのですが、やはり難しいですね。




