第24話【仮初】
模擬戦後の夜。四人はテーブルを囲んでいたが、食事は手つかずのまま。
最初に口を開いたのはショウだった。
「……なぁ、正直に言うけどさ。あれ、模擬戦なんて次元じゃなかったよな。心臓止まるかと思ったぞ」
普段の陽気さをかなぐり捨てた声。リナも深く頷き、空気が重くなる。
ユウマは苦笑しながらも、握った拳を机の下で震わせた。
「もし続けてたら――俺は確実に負けていた」
エリカが目を丸くする。
「ユウマ……」
「炎だけじゃない。他の魔法を全部使えたとしても……あの“視線”には勝てない。俺は……ただ生き延びただけだ」
その告白に、誰も言葉を返せなかった。
だがユウマは顔を上げ、無理にでも口元に笑みを作る。
「だから、あれはエリカの力のおかげだ。お前の魔力を付与されたから、俺の眠ってた力が目覚めただけだ」
リナが呆れたように椅子を引いた。
「……そんな理屈、誰が信じるんですか」
けれどエリカは慌てて頷いた。
「そ、そうよ。ユウマは私の力があったから戦えたの。それでいいじゃない!」
「なるほどな!」とショウが手を打ち、笑顔を見せる。
「エリカの魔力とユウマの潜在能力が噛み合ったんだ! チームの絆ってやつだな!」
「……はぁ」リナは深々とため息をつき、頭を抱える。
「この二人、揃って誤魔化す気満々ですね……」
それでもユウマは迷わなかった。
「真実を言うよりはマシだ。俺は炎の力を借りて戦った――そういうことにする」
内心で呟く。
――次は隠すんじゃない。制御だ。あの力に呑まれたら、本当に終わってしまう。
==ユリナSIDE==
月光が差し込む廊下を、ユリナ・ダークネストは一人歩いていた。紅紫の瞳が細まり、冷たい光を宿す。
「……やっぱり、あの炎は《フレイムハート》のものじゃない」
浮かんだのは冷笑。
エリカ・フレイムハートの炎は、あのCクラスの少年――ユウマ・イチノセに塗り潰されていた。
「彼女は仮初の《Sクラス》」
吐き捨てるように呟く。
「仲間に庇われて立つだけの偽物。自力で証明できなかった以上、私と競う資格はない」
名門の血筋など関係ない。力で証明できぬ者にその座は不要。
しかし同時に、胸を焦がす熱も確かにあった。
「……ユウマ・イチノセ」
その名を口にした瞬間、背筋に戦慄が走る。
彼は自分の“視線”を正面から弾き返した。唯一の存在。
「あの時ダンジョンから生還したのも偶然ではなかった……」
瞳のない魔物と遭遇したと聞き、名を訪ねた時のことを思い出す。
「あなたは――私の天敵へと必ず至る。
それまで無事に成長できるのかしら」
その声音は熱に揺れていた。怒りでも恐怖でもない。
捕食者が本能で求めるものに出会った昂ぶり。
「放ってはおけない。必ず――その瞳を、私の視線で屈服させる」
紅紫の光が廊下に滲む。
同時に心に刻まれた二つの執着。
エリカ・フレイムハートという“仮初”を引きずり下ろす。
そしてユウマ・イチノセという“本物”を飲み込む。
それは矛盾でありながら、ユリナにとって絶対の真実だった。
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次話で1章終了になります。
1章は主要人物の登場、ざっくりした世界観の共有のみに留めて作品の雰囲気を伝えることを優先しました。
2章からは世界観・設定の深掘りをして、スケールを広げていければと思っています。




